7月24日

 

 国立極地研究所の小川准教授を中心とする研究グループは23日、ノルウェーにある欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダーのデータを用い、極域の上空にあるイオン化した大気が宇宙空間へ向かう上昇流量や速度を解析した結果、CME(コロナ質量放出)と呼ばれるタイプの磁気嵐の時に、地球大気の上昇流量が特に多くなることが明らかになったと発表した。

 

 太陽が放出するプラズマは太陽風と呼ばれ、オーロラの発生要因のひとつである。また太陽風が地球に到達すると、その影響で極域の遥か上空では大気中のイオン化した酸素原子などが宇宙空間に流出することがある。特に太陽から大量かつ高速のプラズマがやってくる場合には、ときどき地球の磁場が乱れる「磁気嵐」が発生し、それと同時にオーロラ爆発が頻繁に発生するため、オーロラ爆発が起こる時には、同時に大量のイオンが超高層大気中から上昇することがこれまでの研究で分かっている。しかしイオン上昇流の時間変化や上昇流量についての観測は十分ではなく、磁気嵐との関係も不明のままであった。そこで研究グループは、ノルウェーのスカンジナビア半島北部とスバールバル諸島の2か所に設置され、日本を含む6ヶ国で共同運用している「EISCAT(欧州非干渉散乱)レーダー」の超高層大気観測データを用いてイオン上昇流の速度及び、上昇流量を解析することとした。

 

 まず研究グループはEISCATレーダーのうち、ノルウェーのトロムソ(北緯69度)と、同国スバールバル諸島ロングイヤービン(北緯78度)の2か所の観測データから、過去20年間(1996-2015年)に磁気嵐が起きていたときの高さ400-500 kmでの観測データを取り出して、磁気嵐時の上昇流の特徴(大気イオンの上昇流量や上昇速度)を調査した。その際磁気嵐を引き起こす要因が、高速の太陽風が先行する低速太陽風に追いつく現象(共回転相互作用領域:CIR)であった時と、太陽フレアに伴う突発的な太陽の爆発現象(コロナ質量放出:CME)であった時の2種類を区別して調べた。

 

 調査の結果、緯度の低いトロムソではCME起源の磁気嵐の場合に夜側でイオン上昇流量が増加していることがわかった。また緯度の高いスバールバルでは、CIR及びCMEの両方の場合において昼側でイオン上昇流量が増加することが判明した。(図1)

 

 また夜間のイオン速度増加が起きているときには、超高層大気中の電子とイオンの温度が共に上昇することも判明した。このことは、極域の遥か上空で、エネルギーの低い電子(数百電子ボルト)の降下と、電場の増大の両方が夜間に起きていることを示唆するとしている。よってCME発生時にトロムソで見られたイオンの上昇流量の増大は、多量の降下粒子に伴って超高層大気中のイオンの量(密度)が増えることに起因することがわかった。

 

 今回の研究では極域イオン上昇流が頻繁に観測される高さ400-500 kmに絞って調査が行われたが、研究グループは今後、異なる高さでの特徴を明らかにしたいと考えている。特により低い高度での調査により、重い分子イオンがいつどこで上昇しているかを明らかにすることで、太陽風の影響による惑星大気の流出に関する知見が得られると考えられる。このような地球大気の流出に関する基本的な性質や機構を理解することにより、火星や金星などの他の惑星大気が太陽風の変化に対してどのように反応するかをシミュレーション研究等により理解することにもつながると期待される。

 

 

( C ) 国立極地研究所

図1

 ノルウェーのトロムソ(北緯69度、磁気緯度66度)とスバールバル(北緯78度、磁気緯度75度)で観測されたイオン上昇流量の日変化。時間帯によって4つに色分けしている。さらに、共回転相互作用領域(CIR)とコロナ質量放出(CME)に起因する磁気嵐をそれぞれ区別して作成している。緯度の低いトロムソではCME発生時に夜側で、緯度の高いスバールバルではCME又はCIR発生時に昼側でイオンの上昇する流量が顕著に増えていることがわかる。

 

 

 

( C ) 国立極地研究所

図2

CMEとCIR起源の磁気嵐の発生初日における極域イオン上昇流の特徴のまとめ図。赤点線と青点線は観測所の位置(一自転中の通り道)を示している。