8月14日

 

 東京大学/国立天文台のワン・タオ特任研究員と東京大学の河野孝太郎教授らの国際研究チームは8日、アルマ望遠鏡を用いてCANDLES領域(ろ座、ろくぶんぎ座、くじら座の中に含まれる3つの領域の総称)を観測した結果、39個もの巨大銀河を110億光年遠方宇宙において発見したと発表した。銀河進化に関する多くの理論では、110億光年遠方の宇宙、つまり110億光年以上遡った過去の宇宙にこれほど多くの巨大星形成銀河があることは想定されていなかった。そのため今回の観測成果は、銀河進化の理解に大きな謎を投げかけるものになるとしている。

 

 天文学者たちはこれまでに様々な望遠鏡を使って遠くの宇宙を観測し、生まれたての銀河や活発に星を生み出す銀河を発見してきた。なかでもNASAのハッブル宇宙望遠鏡(主に可視光から波長1.6マイクロメートルまでの近赤外線を宇宙から観測)はこの分野で中心的な役割を果たしてきた。宇宙から観測することで得られるシャープな画像には、おびただしい数の銀河の姿が写し出されており、私たちの宇宙観を一変させた。しかしハッブル宇宙望遠鏡がどんな銀河でも撮影できるわけではない。ハッブル宇宙望遠鏡が捉える可視光と近赤外線では、大量の塵(ちり)を含む銀河の場合、星からの光が塵によってさえぎられるため、より波長の長い赤外線のほうが銀河から放出されやすくなる。さらに、宇宙の膨張によって光の波長が引き伸ばされるため、過去の宇宙に存在するこうした天体を捉えるには赤外線よりさらに長い波長のサブミリ波(波長0.1~1ミリメートル)を観測する必要がある。

 

 今回東京大学/国立天文台のワン・タオ 特任研究員らの研究チームは、過去の宇宙の詳細な姿を捉えるべく、ハッブル宇宙望遠鏡が精力的に観測したCANDELS領域の中から、ハッブル宇宙望遠鏡の画像には写っていないがスピッツァー宇宙望遠鏡 (3.5マイクロメートルから24マイクロメートルまでの中赤外線を宇宙から観測)の画像には写っている天体を63個選び出し、アルマ望遠鏡でサブミリ波による詳細な観測を行った。その結果63天体のうち、39天体からサブミリ波を検出した。また39天体はいずれも星を活発に作る巨大銀河(巨大星形成銀河)であり、110億年以上遡った過去の宇宙に存在していることが明らかになった。その質量は太陽数百億個分から一千億個分に及ぶとしている。この規模は私たちが住む天の川銀河とほぼ同等かやや小さい程度であるが、110億年以上昔の宇宙では巨大な銀河といえる。さらに、赤外線とサブミリ波の明るさを総合して考察すると、これらの銀河では天の川銀河の100倍のペースで活発に星が生まれていることも明らかになった。

 

 研究チームは39個もの巨大銀河は、現在の宇宙に存在する巨大楕円銀河の祖先であるだろうと考えている。巨大楕円銀河は、多くの銀河の集団(銀河団)の中心に位置する天体であり、太陽数兆個分の質量を持つ「銀河の王様」ともいうべき巨大な天体である。

 

 しかし、今回の研究によって一つの大きな謎も生まれた。110億年以上昔の宇宙で、活発に星を生み出す巨大銀河がこれほど数多く存在することは、これまで理論的にはまったく予測されていなかったのである。銀河の誕生と成長の様子を説明するいろいろな理論モデルやシミュレーションでは、これほど多くの巨大銀河が作られることは考えられない。広く受け入れられているダークマター(暗黒物質)によって宇宙の構造が形成されるという理論モデルにおいても、これほどの多くの巨大天体が作られることは考えられない。

 

 ワン氏は「今回のアルマ望遠鏡の成果は、宇宙や銀河の進化に関する私たちの理解に挑戦状をたたきつけたといってもいいでしょう。銀河の進化を包括的に理解するためには、巨大楕円銀河の成り立ちを考えることが欠かせません。アルマ望遠鏡を駆使した更なる詳細観測に加え、近未来に打ち上げが期待されるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や宇宙赤外線望遠鏡スピカによる観測で、この謎に挑みたいと考えています。」とコメントしている。

 

 

( C ) 東京大学/CEA/国立天文台

今回観測をした領域のハッブル宇宙望遠鏡による画像(左)と、アルマ望遠鏡により観測された巨大星形成銀河の画像(右)。サブミリ波では明るく輝いているが、可視光で最も感度の高いハッブル宇宙望遠鏡による観測では全くなにも写っていないことがわかる。


 

( C ) 国立天文台

アルマ望遠鏡で観測された、110億年以上過去の宇宙に存在する巨大星形成銀河の想像図(図中にある4つの大きい銀河)。多量の塵(ちり)を含み、その中で爆発的に星が生み出されており、やがて巨大楕円銀河へと進化していくことが予想される。