9月11日

 

 東京大学宇宙線研究所の馬渡健特任研究員、早稲田大学の井上昭雄教授らの研究チームは10日、ろくぶんぎ座の方向にあるCOSMOSと呼ばれる天域において、宇宙年齢わずか3億年(135億光年の距離)の3個の「老けた」銀河を発見したと発表した。観測はアルマ望遠鏡によって行われ、すばる望遠鏡などのデータも利用された。

 

 宇宙で最初の星や銀河の誕生について、世界中の天文学者の大きな関心が集まっている。近年の観測技術の目覚ましい発展により、これまでに133億年前の銀河まで観測できるようになった。しかし、初代銀河の誕生はさらに宇宙史をさかのぼる宇宙年齢1億年から5億年の間(赤方偏移(*注1) 30から10 )であると推定されている。この時代の銀河を直接観測するには、将来の観測装置を待つ必要があるとされている。

 

 東京大学宇宙線研究所の馬渡健特任研究員、早稲田大学の井上昭雄教授らの研究チームは、宇宙初期の銀河形成に迫るため、将来の観測装置を待つことなく別の方法を用いて宇宙初期の銀河を探査できないかどうか考えた。その結果、既存のデータ利用とアルマ望遠鏡によるCOSMOS天域の独自観測を行うことで、宇宙初期の銀河探査を行うという結論に至った。銀河形成の多様なメカニズムの一つに、大量の星が一気に作られ、その後は星が単に年老いていくだけというシナリオがある。このような「老けた」銀河は過去の星形成の痕跡を残す化石のような天体であるため、発見された時代よりも過去の様子を探ることができると本研究をリードした馬渡特任研究員は考えたのである。

 

 観測の結果、COSMOS天域において近赤外線で明るい3万7千の天体から「老けた」銀河の候補を3つ選び出すことに成功した。詳細な解析から、これらの天体はいずれも宇宙年齢10億年程度の時代にある約7億歳の星からなる「老けた」銀河である可能性が高いことがわかった。つまり宇宙年齢わずか3億年(赤方偏移14、135億光年の距離)の時代に銀河が誕生していたことが推測できたとしている。観測は電波観測で行われたが、「老けた」銀河の数少ない特徴として、バルマーブレークというスペクトル中の段差がある(図1)。バルマーブレークの強さは銀河をつくる星の年齢に比例し、赤方偏移6でだいたい3μmの近赤外線波長域に現れる。研究チームはまず、スピッツァー宇宙望遠鏡の近赤外線画像に写る3万7千の天体の中から、3.6μmバンドで明るく、それより短波長側で見えない6天体を候補として選んだ。また「老けた」銀河は星間塵の熱放射が少なく、遠赤外線で暗いはずであるとされている。そこで6天体に対してアルマ望遠鏡の超高感度観測を行い、星間塵の熱放射が見えない3天体を選んだ。最高感度を誇るアルマ望遠鏡においても遠赤外線が未検出であるということが「老けた」銀河である可能性を高めている。

 

 また赤方偏移14における星形成率密度 (*注2) を求めたところ、直接的な観測が到達している赤方偏移10までの測定値に比べて小さいものの、減少率はゆるやかであることがわかった(図3)。銀河の合体・集積だけを考えると、赤方偏移8以上で星形成率密度がもっと急激に減少するため、今回の結果は宇宙最初期の銀河の星形成活動は予想外に効率的であったことを示唆している。

 

 今回見つけた3個の天体が「老けた」銀河であると断定するには、バルマーブレークの詳細な分光確認が必須である。馬渡特任研究員は、2021年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げを予定しているJames Webb Space Telescopeを使えば確認できるとの見通しを立てている。その観測データから、宇宙最初期にどうやって効率的に大量の星が作られたのかという物理過程の解明も期待されるとしている。

 

*注1 赤方偏移とは宇宙論的距離を表す際に使われる指標である。宇宙の膨張に伴って遠方天体からの光は引き伸ばされ、赤方偏移 z の場合に観測される光の波長は元の(1+z)倍となる。赤方偏移は時間指標としても有用であり、例えば赤方偏移6は現在から130 億年前、赤方偏移14の場合は135億年前に相当する。

 

*注2 銀河が一年あたりに太陽何個分の星を作っているかの指標を星形成率という。さらに、ある体積に含まれる全銀河の星形成率を足し上げて、単位体積あたりどれだけの星が生まれたかを表す物理量は星形成率密度と呼ばれている。

 

 

( C ) 東京大学

図1. 年齢毎の赤方偏移6のモデル銀河スペクトル。年老いた銀河ほどスペクトルが赤く、3μm付近のバルマーブレークが発達することがわかる。

 

 

 

( C ) 国立天文台

図2. 観測された赤方偏移6の老けた銀河(右)とその銀河が星形成をしていた赤方偏移14の時代における先祖(左)の想像図。

 

 

 

( C ) 東京大学

図3. 赤方偏移6の老けた銀河から推定される、それらの先祖による星形成率密度(赤色塗りつぶし)。赤方偏移1から10の星形成銀河の直接観測に基づく測定値もプロットしてある。緑線は赤方偏移1から8までの測定値に対するフィット線で、赤方偏移8以上では緩やかな減少を予想する。灰色塗りつぶしは銀河の合体・集積だけを考えた理論予想であり、赤方偏移8以降で急激な減少を示す。