9月18日

 

 NEC/東京大学の原千穂美氏と国立天文台の川邊良平教授を中心とした研究チームは10日、最も若く連星の間隔が狭い双子原始星VLA1623A(へびつかい座方向)をアルマ望遠鏡で高解像度観測した結果、回転軸が不揃いである分子流対を発見したと発表した。分子流は原始星中心軸に向かって放出されるガス。この観測結果は連星系形成の従来理論モデルとして考えられてきた円盤分裂モデルを支持するものだとしている。研究チームは今後観測回数を増やすことで、連星系の理論モデルとして何が適当であるか解き明かしていく予定である。

 

 星の多くは、連星として生まれることがわかっている。どのようにして連星が生まれたかはまだよくわかっておらず、連星が作られるメカニズムはいくつも提唱されている。例えば「乱流分裂モデル」は、星の材料である分子雲が乱流によって複数の分子雲コア(星のたまご)に分裂し、分子雲コアどうしが互いに回りあう中で星が生まれ、最終的に連星系ができるというものである。また「円盤分裂モデル」は、原始星を取り巻くガス円盤(原始星円盤)が分裂してもうひとつの星を生み出すことで連星ができるというものである。これらが複合的に合わさって最終的な連星系ができるという考え方もあり、どのモデルが優勢なのかまだわかっていない。

連星形成のメカニズムに迫るためには、数多くの若い連星系を観測し、これらの特徴を統計的に考察する必要がある。このときに注目すべき特徴のひとつは、原始星の周りにできる円盤中心軸の向きである。

 

 連星形成の謎に迫るべく、今回NEC/東京大学の原千穂美氏と国立天文台の川邊良平教授を中心とした研究チームは、最も若く連星の間隔が狭い双子原始星VLA1623Aをアルマ望遠鏡で高解像度観測した。その結果、双子原始星のそれぞれから噴き出す、これまで知られていなかった不揃いな回転軸の分子流対を検出した(図2)。分子流は、原始星円盤の回転軸方向に飛び出すのが普通であるため、2本の分子流がそろっていないということは、ふたつの原始星円盤の回転軸も大きく傾いているということを示している。間隔の狭い連星系で、不揃いな分子流が見つかった例は今回が初めてである。また今回の観測では、分子流の中心部を流れるジェットの構造から、双子原始星の軌道運動に起因すると思われる、ジェットの波打ち現象を捉えることにも成功している(図3)。

 

 従来の考え方では、間隔の狭い連星系の多くは「円盤分裂」によって形成され、円盤の向きはそろっているはずだとされてきた。しかし磁場や乱流など現実的な様々な効果を取り入れた近年の「円盤分裂モデル」では円盤の向きがそろわない可能性も指摘されている。今回のVLA1623Aの観測結果はこれと合致するものですあるが、「乱流分裂モデル」を棄却するものでもない。今後このような観測を増やすことで、連星系形成のモデルを検証し、どのようなモデルが支配的かを解き明かしたいと研究チームは考えている。また、回転軸が不揃いな円盤からは不揃いな惑星系が生まれてくる可能性もあり、なぜ多様な系外惑星系はこれほど多様なのかという、誕生の謎にも迫ることができると期待されるとしている。

 

 

 

図1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kawabe et al.

アルマ望遠鏡観測で得られた、双子原始星VLA1623Aから噴き出す分子流の分布。青色、水色、橙色、赤色は、それぞれ高速で近づいてくるガス、低速で近づいてくるガス、低速で遠ざかるガス、高速で遠ざかるガスを示している。

 

 

図2 ( C ) Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kawabe et al.

アルマ望遠鏡で観測された、VLA1623Aの低速度の分子流。赤い成分は、遠ざかる成分であり、青い成分は近づいてくる成分である。緑で示したのは、一酸化炭素分子12C16Oの同位体、12C18O輝線で得られた高密度分子雲の分布(明るいほど電波強度が強い)。VLA1623Aからの折り重なっている2つの分子流(左図)を分離してみると、放出角度は見かけ約10度異なり、近づく成分と遠ざかる成分のパターンが逆の2つの分子流から構成される(右図の分子流1と分子流2)。逆の速度構造を持つことも考慮すると、分子流の放出角度は3次元的には約70度異なっていることがわかった。

 

 

図3 ( C )ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kawabe et al.

VLA1623Aからの高速度分子流で見られるジェット状の成分(遠ざかる成分)の拡大図(図2の分子流1の中心部を突き抜けている成分)。このジェットには、波打つ構造が、3周期分はっきりと確認できる。1周期の間隔は、時間でおおよそ300年であり、双子原始星の軌道周期、400~500年とほぼ一致することがわかった。この波打ち現象は、双子原始星の軌道運動に起因していると考えられている。