12月11日

 

 ミシガン大学のリチャード・ティーグ氏らを中心とする研究チームは5日、若い星であるHD163296(いて座の方向約330光年に位置する)のアルマ望遠鏡による観測データを解析した結果、若い星をとりまく原始惑星系円盤内で3次元的なガスの流れを発見したと発表した。また原始惑星系円盤内の3ヵ所でガスが滝のように円盤内の隙間に流れ込み、ガスの回転流を生み出している様子を描き出すことに成功した。この隙間は、形成中の惑星によって作られた可能性が最も高いと考えられるとしている。また3次元的なガスの流れは原子惑星系円盤から形成される惑星大気の化学組成にも直接影響を与えると考えれており、今回の研究成果は惑星大気の形成過程を理解する鍵にもなりうる。

 

 惑星は若い星のまわりにあるガスや塵でできた原子惑星系円盤の中でできると考えられているが、現在においても多くの謎が残されており、天文学者たちによって研究が進められている。また原始惑星系円盤はこれまでにも観測が何回も行われているが、円盤内にはガスの隙間が生じていることがこれまでに確認されており、この隙間は惑星がガスの中を通過することによって引き起こされているのではないかと考えられている。これらの惑星形成のもととなる原始惑星系円盤の解明に向けて、原始惑星系円盤の塵やガスの動き、ガスの中に存在する隙間で何が起こっているのかを確認し、解析することが欠かせない。

 

 原始惑星系円盤の質量の99パーセントはガスが占めており。ガスの中で最も明るく輝くのが一酸化炭素(CO)ガスである。この一酸化炭素ガスはアルマ望遠鏡で観測することができる。昨年天文学者たちの2つのチームは、ガスを使った新しい惑星発見法を実証した。彼らは若い星HD163296のまわりの円盤内で公転する一酸化炭素(CO)ガスの速度を測定し、公転運動から逸脱した動きを示すガスによって、円盤内に存在する3つの惑星のような構造の存在を明らかにした。

 

 今回ミシガン大学のリチャード・ティーグ氏らは原始惑星系円盤の謎を解明すべく、HD163296まわりの原始惑星系円盤の観測データを利用して、詳しくガスの速度を研究することとした。その結果1方向だけでなく3方向のガスの流れを測定することに成功した。円盤内のガスは、星の周りを回転したり、星に近づいたり遠ざかったり、円盤内を上下に移動したりするとしている。また円盤内の異なる3ヵ所で、上層から中層に向かって移動するガスの流れを見つけた。この結果、若い星をまわる軌道にある惑星がガスや塵を押しのけて隙間を開けている可能性が高いと結論付けている。隙間の上層にあるガスが滝のように流れ込み、円盤内でガスの回転流を引き起こすのである。3ヶ所でこれらのガスの動きがみられたということは、3つの惑星が存在することに相当する。

 

 これは若い星HD163296のまわりに実際に惑星が形成されていることを示す最良の証拠である。しかしこれだけでは惑星がガスの流れを引き起こしていると100%断言することはできない。それは星の磁場もガスの乱れを引き起こす可能性があるからだとしている。「現在は惑星の直接観測によってのみ、他の可能性を排除できます。しかし、今回捉えたガスの流れのパターンは独特であり、惑星だけがこの現象を引き起こす可能性が非常に高いといえます。」と、論文の共著者であるカーネギー科学研究所のジェイハン・ペ氏はコメントしている。ぺ氏は、円盤のコンピューターシミュレーションによってこの理論をテストして今回の観測結果の特徴を裏付けることに成功した。

 

 今回の研究で予測された3つの惑星の位置は、昨年の観測結果にも対応している。これらの惑星の位置は、恒星から87au(*注1)、140au、および237 auであるとしている。若い星HD163296に最も近い惑星の質量は、木星の半分であり、2番目に近い惑星は木星と同等の質量、最も遠い惑星は木星の2倍の質量があると見積もられた。なおHD163296の質量は太陽の2倍であり、年齢は太陽の1000分の1ほどにあたる約400万歳と見積もられている。

 

 原始惑星系円盤の表層から中層に向かうガスの流れは、1990年代後半から予測されてきたが、天文学者がこの現象を発見したのは今回が初めてのことである。このようなガスの流れは、生まれたばかりの惑星を検出するのに役立つだけでなく、巨大なガス惑星がどのようにして大気を獲得するのかについての理解にもつながる。ティーグ氏は「惑星は、円盤の中層で形成されます。この中層は、星の放射から保護された寒い場所です。またこの惑星によって引き起こされる隙間は、化学的に活性な円盤の表層からより温かいガスをもたらし、このガスが惑星の大気を形成するだろうと我々は考えているのです。」とコメントしている。また論文の共著者であるミシガン大学のテッド・ベルギン氏は「このようなガスの流れを特徴づけることにより、どのようにして木星のような惑星が生まれるかを理解し、惑星誕生時の化学組成を明らかにすることができます。惑星は形成過程を通じて移動していますから、惑星誕生の場所を追跡するためにガスの流れを利用することができるかもしれません。」と今後の惑星形成過程の解明に向けた期待について述べている。

 

*注1 auは天文単位であり、地球から太陽までの平均距離を表す。

 

 

( C ) NRAO / AUI / NSF, S. Dagnello.

ガスが滝のように原始惑星系円盤の隙間に流れ込む様子の想像図。この隙間は、生まれたばかりの惑星によって引き起こされる可能性が最も高いと考えられている。

 

 

 

( C ) NRAO / AUI / NSF, B. Saxton.

研究チームは原始惑星系円盤内のガス(矢印)の流れを3つの方向で測定した。ガスは星のまわりを回転したり、星に近づいたり遠ざかったり、円盤内を上下に移動したりする。右側の拡大図は、若い星HD163296のまわりの軌道上にある惑星が、ガスや塵を押しのけて隙間を開けるところを示している。