2月11日

 

 スウェーデン・チャルマース工科大学のハンス・オロフソン氏らの研究チームは5日、アルマ望遠鏡とその隣で欧州が運用する口径12m電波望遠鏡APEXによる観測を組み合わせ、ケンタウルス座にある連星系(*注1) HD 101584を観測した結果、連星系がなすガスの広がりを撮影することに成功したと発表した。ひとつの星が年老いて大きく膨らんだことで、もう一方の星がそのガスの広がりに取り込まれてしまい、この星の動きによって年老いた星のガスが大量に宇宙空間にまき散らされたものである。また今回の発見によってこの連星系が単独の赤色巨星が白色矮星になるのに比べ、ずっと早く進化の最終段階に到達してしまっていることがわかったことは特筆すべき点であるとしている。

 

 星は水素やヘリウムを主成分とするガスが自己重力によって収縮し、明るく輝くガス球である。星は様々な元素を作りながら、いつかは最期の時を迎える。星は年齢によって姿を変えていくが、太陽のような星の場合、中心部にある水素を核融合反応で燃やし尽くしたときに最初の変化が訪れる。星は大きく膨らみ、赤くて明るい赤色巨星へと進化するのである。やがて、赤色巨星の外層部分のガスが宇宙空間に流れ出して惑星状星雲 (*注2) と呼ばれる星雲を形作り、星の中心部は白色矮(わい)星と呼ばれる高温高密度な天体として残される。

 

 オロフソン氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡とその隣で欧州が運用する口径12m電波望遠鏡APEXによる観測を組み合わせ、星の進化過程の謎を解明すべく、連星系HD 101584を観測した。その結果、連星系を取り囲むガスと、ジェットの流れを捉えることに成功した。研究チームはこの連星系の形成過程について以下のように考えている。まずは質量の大きい主星が先に赤色巨星へと進化し、質量の小さい伴星を取り込むほどに大きく膨らむ。その後伴星はらせん軌道を描きながら主星の中心へと落下していく。なお観測結果からは伴星が主星の中心部と衝突するには至っていない。そしてこの伴星の動きがきっかけで、主星は短時間に大量のガスを宇宙空間に放出し、星の芯が外からも見える状態になってしまうのである。

 

 今回の観測で写し出された星のまわりの複雑な模様は、伴星の動きによってかき乱され吹き飛ばされた赤色巨星のガスの他、左右方向に細く噴き出したガスによっても作り出されていることが明らかになった。複雑なガスの動きによって、星のまわりにこの美しい構造が作られているのである。

 

 今回観測結果によって描き出された赤色巨星のまわりのガス雲は、星々の重力的な争いによって生み出されたものであるが、太陽のような星の最期の姿をよりよく理解するための手がかりを天文学者に与えてくれる。「太陽のような星が一生を終える様子は、一般論として大まかなシナリオを説明することはできますが、そこで起きることの具体的な理由やその過程を詳しく理解することはできていませんでした。今回観測したHD 101584は、赤色巨星と惑星状星雲というよく研究されたふたつの進化段階のちょうど中間に位置していて、進化の過程を解き明かすための重要なヒントを与えてくれます。HD 101584の構造を詳しく写し出すことで、元の巨星と惑星状星雲の間をつなぐことができるのです。」と、共同研究者であるスウェーデン・ウプサラ大学のソフィア・ラムステッド氏はコメントしている。

 

*注1: 2つ以上の星がお互いの重力によって引き付けあい、お互いのまわりを回りあっているものを連星系と呼ぶ。天の川銀河に存在する星の半分以上は、連星系を成している。

 

*注2: 有名な惑星状星雲としては、こと座のリング星雲(環状星雲)などがある。丸い形のものが多く、昔の望遠鏡で見た時に惑星のように見えたことからこの名があるが、実際には惑星とは何の関係もない。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Olofsson et al. Acknowledgement: Robert Cumming

アルマ望遠鏡が撮影した、連星系HD 101584周囲のガスの広がり。色はガスの動きを表していて、赤が地球に対して遠ざかるガス、青が地球に対して近づくガス、緑はその中間の速度を持つガスである。中心の星から画像左右方向には、細長いガスの流れ(ジェット)が見えている。連星系は中心の明るい緑色の部分にある。