4月9日

 

 NASAは6日、南カリフォルニアにあるジェット推進研究所のグレッチェン・マッカートニー氏らを中心とする研究チームが土星探査機「カッシーニ」のデータを用いて土星の大気密度と温度分布を解析した結果、土星の大気上層が温められる要因について、土星の南北極域におけるオーロラの発生によって説明できることを見出したと発表した。太陽風と土星衛星からのプラズマ粒子が反応してオーロラが発生し、上層大気を温めているとしている。

 

 土星のオーロラはプラズマ粒子が土星における水素分子、原子と衝突して起こるものである(地球上では、酸素、窒素の分子・原子が反応する)。また土星だけでなく、木星、天王星、海王星の大気はガスで包まれており、その上層大気は地球と同じように暖かい。ところがこれらの天体は太陽からとても遠いところにあるため、太陽光によって温められているとは考えられず、熱源がどこに存在しているのかは謎とされていた。

 

 研究チームはカッシーニのデータを解析して土星大気における熱の分布がどのようになっているかの写真を作成することに成功し、オーロラを発生させる電子が上層大気を温めて風を起こしているという知見を得ることができた。この風のエネルギーによって極域から赤道付近までエネルギーを供給し、太陽単独で土星を温めるよりも、2倍の温度分温めることができるとしている。

 

 今回研究チームが利用したカッシーニのデータはカッシーニが「グランドフィナーレ(*注1)」期間において集めた土星のデータであり、土星の大気の密度や温度分布を決めるのに役に立った。密度は大気の高度と共に減少し、その減少割合は温度に依存する。そしてカッシーニのデータからオーロラの近くで温度のピークがあるために、オーロラが上層大気を温めていることが示唆された。また大気の密度と温度分布がわかれば風の速度を決めることができるようになる。このような宇宙空間に接する大気の環境の理解が得られると、他の太陽系に存在する惑星や、太陽系外惑星における宇宙天気を理解するとともにその影響を評価できるようになるとしている。

 

 研究チームの一人であるトンミ・コスキネン氏は、「この研究成果は惑星の上層大気を研究する上でとても重要な成果であり、カッシーニのレガシーの重要な部分になった。太陽から遠く離れた天体であるために大気は冷たいのであるが、その上層部分だけが温められていることの謎に迫ることができる」とコメントしている。

 

*注1:2017年4月26日~同年9月15日までに行われた土星探査機カッシーニの最後のミッションのこと。土星本体とリングの間をくぐり抜け、その間では驚くほどダストが少ないことを発見したり、土星の内部構造や磁場の調査などを行って、貴重なデータを得ることに成功した。

 

 

( C ) university of Arizona/VIMS

カッシーニによって捉えられた合成色の写真である。近赤外線で撮影したものであり、緑色はオーロラが発生している部分を表す。土星の極域からおよそ1,000km離れたところでオーロラが発生している。青色の部分は太陽光が反射している部分で波長が2~3マイクロメートルの電磁波、緑色の部分は水素イオンから出る電磁波で3~4マイクロメートルのもの、赤色の部分は熱放射が出ている部分で5マイクロメートルの電磁波で観測された。土星のリングと高所におけるもやの部分では3マイクロメートル以下の太陽光を反射しており、青色が卓越していることがわかる。オーロラが発生している部分は緑色であり、熱放射が起きている部分は赤色となっている。なお黒色の部分は雲か、小さな台風を表している。2008年11月1日にカッシーニのデータを基に作成された。