JWSTがタランチュラ星雲内の星団の姿を捉えた

9月19日

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, and STScI

JWSTの近赤外線カメラが捉えたタランチュラ星雲。真ん中に星団と、8本の回折スパイクを出す古い星が存在する。星団によってガスが吹き飛ばされ、空洞ができている様子がわかる。

 

 NASA/ESA/CSAは6日、ジェームズウエッブ宇宙望遠鏡(JWST)によって、大マゼラン雲にある「タランチュラ星雲」と呼ばれる星形成領域において、何万もの若い大質量星からなる星団を鮮明に捉えることに成功したと発表した(図1)。さらにタランチュラ星雲のガスやダストの構成(図2)や、その背景にある銀河団の姿を捉えることにも成功した。タランチュラ星雲は天の川銀河から近いこともあり、星の形成理論を考えるために天文学者の間で長い間研究されてきた。しかしこれまでの望遠鏡では雲に覆われたタランチュラ星雲しかとらえることができず、その実態がよくわかっていなかった。

 

 大マゼラン雲は地球からおよそ161,000光年離れた場所にある銀河である。タランチュラ星雲は大マゼラン雲の中にあり、大質量星を生み出し、全体的に最も光り輝き、大きな星形成領域であると考えられている。またタランチュラ星雲は、“cosmic noon(宇宙の昼)”と呼ばれる、宇宙が誕生してから数十億年後の大量の星形成が行われた時代の化学組成に似ていると考えられており、天文学者の間では、cosmic noonを研究するために、タランチュラ星雲の研究を行ってきた。

 

 観測チームは今回のJWSTによる観測で、3つの赤外線カメラを使うことで、タランチュラ星雲の鮮明な姿を捉えることを目指した。図1は近赤外線カメラ(NIRCam)で捉えられたタランチュラ星雲の様子であるが、中央右にまだガスに覆われて見えない部分があるものの、青い大質量星の星団の姿がしっかり映っている。この星団の熱による圧力勾配でまわりのガスを吹き飛ばし、真ん中にある空洞を生み出している。その星団の左上には8本の回折スパイクを出している古い星の姿が映っている。回折スパイクの上に伸びる線は、白い部分にかかっているが、この白い部分は「ガスの泡」と呼ばれている。星団によって吹き飛ばされたガスは冷えていき、炭化水素化合物で主に構成された柱上のガスとなる。赤褐色で示された場所にその柱状のガスが存在するが、重力などの影響で新たな原始星を生み出すと考えられている。

 

 これまでは大質量星団に属する星はまわりのガスを吹き飛ばす過程において、少し年老いた星になっていくと考えられていた。しかし今回の観測によって、実はこれらの星はまわりのガスを分離している状態にあり、若い星で構成されていることが判明した。

 

 図2は近赤外線カメラで作成された、大質量星団によって吹き飛ばされた「ガスの泡」(白い部分)のスペクトル分布(NIRSpec)が示されている。青で示された部分は水素原子の分布を示しており、真ん中の点は原始星自身を示している。緑色の図は水素分子、赤色は炭化水素を表している。このことはガスの泡が、星団の右下に存在する柱状のガスの頂点部分であることを示唆するとしている。

 

 図3は中間赤外線カメラ(MIRI)で捉えれた、タランチュラ星雲の様子である。星団の姿は映っていないが、その代わりに星団を覆い隠す、成長段階にある炭化水素で主に構成されたガスとダストの様子が、青色と紫色の部分で示されている。

 

 今回JWSTによってタランチュラ星雲の詳細な姿が映し出されたが、今後もデータ解析を続けることによって、新たな発見がなされることが期待されている。

 

 

図2 ( C ) NASA, ESA, CSA, and STScI

近赤外線カメラで作成された、大質量星団によって吹き飛ばされた「ガスの泡」(白い部分)のスペクトル分布(NIRSpec)が示されている。青で示された部分は水素原子の分布を示しており、真ん中の点は原始星自身を示している。緑色の図は水素分子、赤色は炭化水素を表している。

 

 

図3 ( C ) NASA, ESA, CSA, and STScI

中間赤外線カメラ(MIRI)で捉えれた、タランチュラ星雲の様子である。星団の姿は映っていないが、その代わりに星団を覆い隠す、成長段階にある炭化水素で主に構成されたガスとダストの様子が、青色と紫色の部分で示されている。