2016年11月13日

 

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は11日、国際深海科学掘削計画の一環として平成28年9月10日から実施していた地球深部探査船「ちきゅう」を用いた「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)」について、11月10日に調査海域での作業を終了したことを発表した。

 

 本掘削調査では、高知県室戸岬沖から南東約120 kmに位置する南海トラフのプレート沈み込み帯先端部(水深4775.5 m)において、生命が生息可能な温度範囲(約120°C)をカバーする、海底下189 mから基盤岩に達する1180 mの区間で112本のコア試料を採取。海底下約550 m(地層温度約65°C)までの地層から微生物細胞が検出されており、その深度より深い地層中においても、微生物活動の影響が示唆される現象が見つかった。

 

 掘削調査を行った背景には、地球表層の約70%を占める海洋の下には、海水中の生物量に匹敵する量の微生物が生息する「海底下生命圏」の存在が確認されており、その広大な生命圏に存在する微生物生態系の活動は、炭素をはじめとする元素・エネルギー循環や、地球と生命の進化にとって重要な役割を果たしていると考えられていたことがある。しかし、海底下生命圏の空間的な広がりや微生物細胞の代謝機能・進化プロセスは未解明の部分が多く、特に海底下深部環境における生命生息環境の限界及びそれを規定する環境要因は未だ解明されていない。

 

 今回の掘削調査においては、「ちきゅう」の船上と高知県南国市の高知コアセンターとで並行してコア試料の分析を行った。同センターには、船上で迅速に処理された分析用コア試料が直ちにヘリコプターで搬送され、スーパークリーンルームにおいて外部汚染(コンタミネーション)の影響のない高品位なサンプル部位の採取を行った後、微生物細胞の検出と定量、現場温度・圧力における培養、DNA分析などを行った。

 なお同センターにおける分析は平成28年11月23日まで引き続き実施する予定であり、本掘削調査で得られたコア試料を用いて、さらに詳細な微生物学的・生物地球化学的・物理化学的・鉱物学的な研究を進め、得られた発見や成果を科学論文として公表していくとしている。