2016年11月22日

 

 東京海洋大学は22日、2年間にわたる太平洋側北極海に位置するチャクチ海の調査結果を基に、底生生物の豊富な海底付近の海洋酸性化が深刻な状況にあることを報告した。

 

 この報告結果は東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科の川合美千代準教授らによるもの。

 

 報告結果では人間活動によって放出された二酸化炭素が海水に溶け込むことで、海洋酸性化が全球的に進行していて、酸性化が進むと海水の炭酸カルシウム飽和度(Ω)が低下し、生物は炭酸カルシウムの殻や骨格を作りにくくなるとしている。さらにΩが低下して「未飽和」の状態に達すると、炭酸カルシウムが海水に溶けだすようになる。

 

 チャクチ海においては貝類などが豊富に生息しており、大型動物や海鳥などの主要な餌にもなっているため、これらの貝類を含む生物が負の影響を受ける可能性は高まると予想されている。今後この海域の生物の調査を継続することで、海洋酸性化に対する生物や生態系の応答について明らかにしていく予定である。

 

 今回の調査対象となったチャクチ海のように冷たくて塩分の低い北極海は、酸性化の影響を特に受けやすい海として知られている。中でも、底生生物の多い浅海の海底では、有機物の分解(呼吸)によって放出される二酸化炭素が多く、元来海水のΩが低いという特徴がある。よって酸性化が進行したときには炭酸カルシウム未飽和に達しやすい状況にある。

 

 チャクチ海における炭酸カルシウムが未飽和に達していることが近年観測されていたが、夏季以外の季節は、船舶による観測が困難であったため明らかになっていなかった。しかし川合准教授らは、チャクチ海底層に各種のセンサーを設置し、2012年から2014年の2年間にわたるデータを取得。このデータをもとに、Ωの季節変化を復元した結果、夏季だけでなく、冬季にもΩが低く、1年のうちの7.5カ月以上もアラゴナイト(炭酸カルシウムの種類)に対して未飽和であるという結果を得た。

 また、計算の結果、人為起源二酸化炭素がなかったころに比べて未飽和の時期が倍以上に拡大していること、将来はさらに長期間にわたって未飽和が継続することを示した。