6月10日

 

 東京大学大学院理学系研究科の成田助教授と国立天文台岡山天体物理観測所の福井特任専門員らの参加する国際研究チームKELTは6日、昼面の温度が摂氏4,300度にも達する観測史上最も高温の太陽系外惑星を発見したと発表した。KELT-9bと名付けられたこの惑星は、摂氏およそ10,000度の恒星KELT-9のまわりを約1.5日の短周期で公転している。非常に高温の恒星のすぐそばを公転しているため、自ら光り輝かない惑星であるにも関わらず、この惑星の大気の温度は恒星の温度にも匹敵する高温になっている。また、この惑星は恒星からの強い紫外線を受け、彗星のように大気が流出している可能性が考えられている。今後の詳細な惑星大気の観測で、惑星からの大気の流出率などが明らかになれば、このような高温の惑星がこれからどのような運命をたどるのかが明らかになることが期待されるとしている。

 

 これまでに太陽型星(温度によってF型星、G型星、K型星と呼ばれる摂氏3,500度〜7,000度程度の恒星)では、太陽系の常識には反して木星のような巨大ガス惑星が主星のそばを公転する「ホットジュピター」と呼ばれる惑星が100個以上発見されている。一方、太陽型星より高温の摂氏7,000度を超えるような恒星では、最初の太陽系外惑星の発見(1995年に初めて発見)から20年以上が経過した現在でも、6個しかホットジュピターは発見されていない。近年、太陽系外惑星については太陽より温度が低い低温度星(M型星と呼ばれる温度が摂氏2,300度~3,500度程度)に注目が集まり、低温度星のまわりの生命居住可能惑星の探索が世界的な研究のトレンドとなっている。しかし宇宙における惑星形成の全体像を理解するためには、低温度星とは対極にある高温の恒星のまわりで惑星を探すことも重要である。それは高温の恒星のまわりではホットジュピターが形成されにくいのか、あるいはどこまで高い温度の恒星でホットジュピターが形成されうるのかといった観測による知見が、惑星の形成過程や軌道進化の理論を制約する重要な手がかりとなるからである。

 

 このような背景のもと、研究チームKELTは口径4.2cmという非常に小さな望遠鏡を2台使ったトランジット法(*注1)による惑星探しをすることで、特に明るい恒星のまわりの惑星探しを2005年から実施。成田助教授と福井特任専門員は、岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡に搭載された3色同時撮像装置MuSCATという観測装置を用いて、2015年の夏にこの惑星の発見確認観測に取り組んだ。そして世界のKELTチームのメンバーらの観測結果と合わせ、この惑星候補が本物の惑星であることを確認した。惑星の質量と半径はそれぞれ木星の2.9倍と1.9倍程度で、ホットジュピターに分類される。

 

 通常であれば惑星の大気成分には分子が含まれるが、この惑星の昼面はあまりに熱すぎて水蒸気や二酸化炭素、メタンといった分子は形成できない。この惑星の夜面の温度は測定されていないが、おそらく夜面も同様に高温であるため、たとえ分子が形成されるとしても一時的だと考えられている。つまりこの惑星は従来の惑星とは全く異なる性質の大気を持っているといえる。今後スピッツァー宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡、そして2018年に打ち上げられる予定のジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡などによってこの惑星の大気を調べる研究がこれから進んでいくことが予想される。またこの惑星は主星からの強い紫外線を受け、彗星のように大気が流出している可能性が考えられている。ハッブル宇宙望遠鏡による紫外線でのトランジット観測を行うことで、大気の流出率が判明すれば、惑星が主星に飲み込まれてしまうと考えられるこれから数億年のうちに、全ての大気が惑星から剥ぎ取られてしまうのか、あるいはそうなる前にホットジュピターのまま主星に飲み込まれてしまうのかなどの惑星の運命が明らかになるとしている。

 

(*注1) トランジットとは、恒星の前を惑星が通過する、いわゆる食の現象のこと。太陽系外惑星の軌道がたまたま主星の前を通過するような軌道の時に起こる。トランジット法での惑星探しでは、CCDカメラによって大量の恒星の明るさを同時に観測し、定期的に暗くなっている(減光している)天体を候補として選び出す。CCDカメラでは天体からの光を電荷に変換して天体の明るさを記録しているが、貯められる電荷の量には限界があるため、明るすぎるとかえって観測ができなくなる。従来の地上からのトランジット惑星探しでは、10cmを超える口径の望遠鏡が使われていたため、明るい高温の恒星は主なターゲットから外れてしまっていた。

 

 

 

(C)NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC)

KELT-9(左の青白い恒星)と惑星KELT-9b(右)の想像図。恒星が高速で自転しているためやや扁平になっていることや、惑星からの大気の流出が表現されている。またこの 惑星は、恒星の自転の向きに対してほぼ垂直な方向に公転していることがわかっている。