6月17日

 

 国立天文台及び総合研究大学院大学の廣田朋也氏を中心とする研究チームは13日、アルマ望遠鏡によるオリオン大星雲の中に潜む巨大原始星“オリオンKL電波源I(アイ)”の観測から、原始星から勢いよく噴き出すガス(アウトフロー)が回転していることを明確に捉えることに成功したと発表した。この回転は巨大原始星を取り巻くガス円盤の回転と一致していて、円盤の遠心力と磁場の力によってアウトフローが宇宙空間に押し出されていることを示す、確固たる証拠になるとしている。

 

 オリオン大星雲は地球から約1400光年の距離にあり、大質量星(太陽の10倍程度以上の質量を持つ星)の形成領域としては地球に最も近い場所。オリオンKL電波源Iは大質量星に分類されるが、大質量星の誕生メカニズムについては未解明の点が多く残されている。大質量星は数が少なく、形成現場も非常に遠くにしかないため、これまでは詳しい観測を行うことが困難であった。また星の誕生メカニズムに関する未解決問題に“角運動量問題”がある。これは、星の卵ともいえるガスのかたまりにおいて、収縮するにつれてガスの回転が顕著になると理論的には予測される一方で、宇宙にある星はずっと緩やかな自転しかしていない、という矛盾である。この矛盾を解消するには回転の勢い(角運動量)を、星が誕生する過程で大量に捨て去っていると考えるのが自然である。角運動量を捨てるメカニズムについてはいくつかの説があり、生まれたばかりの赤ちゃん星(原始星)が噴き出すガス(アウトフロー)が回転することによって角運動量を持ち去るという考え方が一般的であった。これを証明するためには、アウトフローの回転を検出すること、そしてアウトフローの駆動メカニズムを明らかにすることが重要であるが、特に観測が難しい大質量原始星においては、アウトフローの回転を実際に観測で描き出すことがこれまで十分にできていなかった。

 

 今回解像度の高いアルマ望遠鏡を使うことによって、これまで観測が難しかったアウトフローの運動を詳細に調べることができたため、これらの課題を解決する大きなきっかけとなったのである。

 

 研究チームは、アルマ望遠鏡の観測からアウトフローの回転をはっきり捉えられただけでなく、その根元が太く原始星を取り巻く円盤の外縁部から吹きだしていることを明らかにした。この結果は、“磁気遠心力風”と呼ばれるメカニズムとよく合致しているとしている。この考え方では、回転する円盤の遠心力によって、円盤のガスを外側に移動させるような力が働く。一方で円盤は磁力線に貫かれている。ガスは磁力線に沿った方向に動きやすいため、遠心力によって外側に押されたガスが、円盤表面から磁力線にそって円盤の上空に流れ出していく。よってアウトフローは星のごく近傍でなく、円盤のむしろ外縁部から噴き出すことになる。

 

 廣田氏は、今回の意義と今後の期待について、「今回の新しい観測結果は、アルマの高画質と高感度という特徴に加えて、アルマによって初めて可能になったサブミリ波での高解像度撮像が重要な役割を果たしました。これによって、原始星から噴き出すアウトフロー中心部の高密度領域での回転を捉えることに成功しました。今後、アルマのさらなる高解像度化によってオリオンKL電波源I以外にも多くの天体で同様の観測が行われ、理論的研究と合わせてアウトフローの駆動機構や大質量星形成機構の理解が進むと期待しています。」とコメントしている。

 

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

オリオンKL電波源Iの想像図。大質量原始星の周囲に円盤が取り巻いており、円盤外縁部の表面からアウトフローが吹きだしている様子を描いている。

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Hirota et al.

アルマ望遠鏡が観測したオリオンKL電波源I。星を取り巻く円盤(赤)と、それに垂直に吹きだすアウトフロー(青)の分布を示している。