6月17日

 

 国立天文台は15日、アルマ望遠鏡による原始多重星系IRAS 16293-2422の観測結果から、国際研究チームが生命の起源に密接に関連すると考えられる有機分子イソシアン酸メチル(*注1)により放たれる電波を発見したと発表した。国際研究チームは2つのチームにより構成され、スペイン・アストロバイオロジーセンターのドメネク氏を中心とするもの、もう一つのチームはオランダ・ライデン天文台のニルス・リグテリンク氏とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのオードリー・クーテンス氏が中心である。

 

 IRAS 16293-2422は、へびつかい座の方向およそ400光年の距離にあり、複数の赤ちゃん星(原始星)から構成。これらの赤ちゃん星は将来的に太陽に似た星になることが推定されている。太陽系の惑星が、太陽が形成された時に残された物質が集まってできたものであるため、太陽に似た星に成長するであろう原始星を調べることが、太陽系が約46億年前にどのような姿であったのか、どのような化学組成であったのかを知ることにつながるとしている。

 

 今回はアルマ望遠鏡の高い感度により、イソシアン酸メチルが発する異なる周波数の電波を捉えることができた 。ドメネク氏らの研究チームはアルマ望遠鏡バンド3(波長2.6~3.6mm)、バンド4(1.8~2.4mm)、バンド6(1.1~1.4mm)の広い波長帯域のデータをアーカイブから取得したり新たに観測したりして解析を行った。一方ニルス・リグテリンク氏らのチームは、ALMA Protostellar Interferometric Line Survey (PILS)プロジェクトで得られたデータを解析。このプロジェクトでは、アルマ望遠鏡バンド7(波長0.8~1.1mm)の全波長帯にわたってIRAS 16293-2422を観測した。またIRAS 16293-2422のまわりには、温かく密度の高いガスがまゆのように取り巻いている。2つの研究チームは、イソシアン酸メチルが発する電波をそれぞれとらえただけでなく、その化学反応をコンピュータモデルを用いて解析し、その起源についても迫ろうとしている。

 

 今回の発見について「この星は、まるで有機分子の宝箱です。以前同じ星のまわりで糖類分子が発見(*注2)されましたが、今度はイソシアン酸メチルを見つけました。これらの有機分子は、アミノ酸やそれが連結したペプチドの合成に使われる分子です。つまり、私たちが知っている生命の基本構成要素といえます。」と、リグテリンク氏とクーテンス氏はコメント。一方ドメネク氏と共同研究者のヴィクトル・リビッラ氏は、「この星が、太陽の生まれた直後によく似ていること、地球に似た惑星が誕生する可能性があることに特に興奮しています。生命の材料になるような物質を見つけたことで、私たちが住む惑星にどのようにして生命が生まれたのかを知るためのパズルのピースを、もう一つ手に入れたことになります。」とコメント。さらにリグテリンク氏は、「分子を検出しただけでなく、どのようにしてこの分子が作られたのかも知りたいのです。実験室で実験してみると、宇宙空間を模した極低温環境ではイソシアン酸メチルが氷の粒子の表面で生成されることを確かめることができます。これは、イソシアン酸メチルが、そして生命の材料が、太陽に似たきわめて若い星のまわりで作られることを示しているのです。」と今後の抱負について語っている。

 

*注1
イソシアン酸メチルは、炭素、水素、窒素、酸素原子を含む物質であり、非常に毒性が高く、1984年にはインドの化学工場から漏れだしたイソシアン酸メチルが大きな被害をもたらした。

 

*注2
アルマ望遠鏡による観測で2012年にグリコールアルデヒドという、私達が普段コーヒーに入れている砂糖とそれほど違わない物質が発見されている。

 

 

(C) ESO/Digitized Sky Survey 2/L. Calçada

へびつかい座の暗黒星雲の可視光画像。イソシアン酸メチルが発見された原始多重星系IRAS 16293-2422はこの暗黒星雲のなかにあり、その位置とイソシアン酸メチルの分子構造イラストを画像に重ねてある。