7月1日

 

 韓国・キョンヒ大学のジョンユァン・リー氏と国立天文台の立松健一氏らをはじめとする国際研究チームは7月1日、おうし座の方向およそ450光年の距離にある連星系(*注1)IRAS (アイラス)04191+1523を対象としたアルマ望遠鏡による観測結果から、連星をなす生まれたばかりの2つの星の自転軸が互いに傾いていることを発見したと発表した。この観測結果は大きなガスのかたまりが乱流によってちぎれ、それぞれの中で星が生まれたことを示していて、“距離の離れた連星系がどのようにして生まれるのか”という天文学の長年の謎に決定的な答えが導き出されたとしている。

 

 これまではガス円盤の中で近い位置にあった2つの星の間隔が互いの重力の影響で何百年もかけて次第に大きくなり、ガス円盤が分裂して距離が離れた連星系が作られるという説も存在していた。しかし仮にこの説が成り立つとすれば、ガスの回転の勢いが慣性運動によりそのままそれぞれの星に持ち込まれ、2つの星の自転軸の向きがそろうはずであるため、今回の観測結果と矛盾する。したがって今回の観測結果は、この考え方を明確に否定するものであり、連星形成に乱流が大きな役割を果たしていることを強く示唆している。

 

 宇宙に存在する星の半数以上は、連星系を形成していて、2つの星の間隔が広いものと狭いものの2つのタイプがあるが、間隔が狭い連星系についてはアルマ望遠鏡の別の観測によって、最初の星の誕生時に周囲にできるガス円盤の中で次の星が生まれている様子が過去に捉えられていた。

 

 今回観測対象となった連星系IRAS 04191+1523は、生まれたばかりの双子星であり、2つの星の間隔は太陽と海王星の距離の約30倍(860天文単位)と、「離れた連星系」に分類される。またこの双子星の年齢は50万歳よりもずっと若いと考えられている。研究チームは、双子星のそれぞれを取り囲むガス円盤に含まれる一酸化炭素分子が出す電波を詳しく解析し、ガス円盤の回転方向を調査。その結果2つのガス円盤の向きがそろっておらず、2つの円盤のなす角は、77度にもなることがわかった。

 

 リー氏は「今回の発見でとくに面白いのは、アルマ望遠鏡データから導き出した2つの星の質量が、太陽の1/10以下と、非常に小さいことです。離れた連星系、特にこうした低質量の星からなる離れた連星系の形成過程はこれまで謎でした。しかし今回のデータが示していることは、こうした低質量連星や、もしかしたらさらに軽い褐色矮星の連星も、より重い普通の星と同じように、乱流に満ちたガスの分裂で生まれる可能性が高いということです。この連星系は、間隔の狭い連星が互いの重力によって広がったと考えるには若すぎます。ですから、乱流が大きなガス雲を引きちぎったことで生まれた双子のガス塊のそれぞれで星が生まれた、と考えるのが自然なのです。」とコメントしている。

 

*注1 連星系とは複数の星で構成され、互いに重力の影響を及ぼし合って公転しあっているものをいう。

 

 

 

(C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Lee et al., ESA/Herschel/PACS

非常に若い原始連星系IRAS 04191+1523の合成画像。アルマ望遠鏡が捉えたふたつの星のまわりの円盤を白、それらを覆う濃いガスの雲を黄色で示している。また、ハーシェル宇宙望遠鏡が遠赤外線で捉えた塵の分布を赤で示している。

 

 

(C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

非常に若い原始連星系IRAS 04191+1523の想像図。濃いガスの雲の中で、自転軸の向きが互い違いになった赤ちゃん星の様子を示している。