7月17日

 

 国立天文台は7月11日、木星大気の「3次元構造」解明に向けたプロセスの進捗状況と今後の課題について公表した。

 

 2016年7月に木星に到着し、観測を進めている米国 NASA の木星探査機「ジュノー (Juno)」の研究を、すばる望遠鏡が地球から支えている。すばる望遠鏡の中間赤外線カメラ COMICS による高解像度画像が木星の対流圏〜成層圏での温度や雲の厚さなどの情報を提供し、「ジュノー」が観測する大気深部や高高度の熱圏などのデータと合わせて、木星大気の「3次元構造」に迫ることができる。

 

 今年5月には『ジュノー』第6回最接近観測との同時観測をすばる望遠鏡が行い、木星の大赤斑とその周辺の画像とスペクトルが捉えられた(図1)。「ジュノー」ミッションの地上支援観測のコーディネーターであり、すばる望遠鏡を使った木星観測プログラムの研究代表者でもある、ジェット推進研究所 (JPL) のグレン・オールトンさんは「大赤斑の中心部ほど冷たく曇っていて、外側ほど暖かく晴れていることが明らかになっています。風が中心部で激しく湧き上がり、周辺部では沈み込んでいるのでしょう。また、大赤斑の北西側の領域では大気の激しい擾乱もみられます」と解説している。

 

 

図1 (C) 国立天文台/ジェット推進研究所

すばる望遠鏡搭載の中間赤外線カメラ COMICS が2017年5月18日に撮影した木星。波長 8.8 マイクロメートルで撮影したこの画像は、木星の対流圏の温度やアンモニアでできた雲の厚さを得るのに有効である。さらに、「ジュノー」が7月11日に観測を行う大赤斑やその周辺の詳細な構造も映し出されている。

 

  特に5月の観測は、「ジュノー」の「第6回最接近観測」をカバーする形で行われ、「ジュノー」が通過する直下領域を含む木星雲層~成層圏大気の温度場と雲層厚、およびその運動と時間変化をCOMICSにより与えることができた。「ジュノー」が観測する初の深部情報 (100 気圧域にまで達する) などとの結合で、木星大気の「3次元構造」を初めて得ることが可能となる。好天に恵まれたこの観測で、すばる望遠鏡はその大口径を生かし約 1000 キロメートルの空間分解能を得ることができた。これは「ジュノー」の木星最接近時に得られるマイクロ波観測の空間分解能にも匹敵するものであるとしている。

 

  また木星は太陽系で最も激しいオーロラ発光が南北両極で起きている。これは電離したイオ噴出ガス(イオは木星の衛星であり、木星からの距離は約42万km)が駆動するものである。1月と5月の COMICS による観測では、この発光高度 (およそ 500-3000 キロメートル) よりも低い成層圏高度でメタン発光が見られることが明らかになっている。すばる望遠鏡を使った木星観測プログラムのもう一人の研究代表者である笠羽康正さん (東北大学教授)は、「これはオーロラを光らせる高エネルギー粒子が大気へ深く侵入し、木星大気を温めまた CH 系有機物を生成する化学反応を引き起こすことを示しています」とコメントしている。「高エネルギー粒子の衝突」は、かつてメタン等も存在したであろう原始地球大気でも起きた現象であり、惑星での大気化学反応プロセスを考える上で貴重な情報となる。今回の発見がJAXA の『ひさき』衛星や東北大学のハレアカラ望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡・X 線望遠鏡群らとの組み合わせで、オーロラ現象と大気の加熱・化学の理解へつなげることができるとし、日本が搭載機器提供で参加する予定の欧州の木星探査計画『ジュース (JUICE)』にもつながる研究となりうるとしている。