7月30日(日)

 

 NASAゴダード宇宙飛行センターのメンバーを中心とする国際研究チームは28日、アルマ望遠鏡の観測データから、土星の衛星であるタイタンの大気に複雑で大きな有機分子である「アクリロニトリル」(C2H3CN(数字は下付き数字)、シアン化ビニールとも呼ばれる)が存在することを発見したと発表した。このアクリロニトリルがタイタン表面の条件次第では、生物の細胞膜のような微小な球体を自然に作る可能性があることを示唆しているとしている。

 

 タイタンは土星最大の衛星であり、太陽系の中でも2番目に大きな衛星である。直径は5,150kmであり、土星からの距離は約123万km。大気は、窒素とメタン(CH4(数字は下付き数字))、エタンなどの炭化水素が主成分。これらの単純な有機分子が、太陽光と土星まわりの高エネルギー粒子をエネルギー源としてアクリロニトリルのような複雑で大きな有機分子に変化すると考えられている。またタイタンは地球よりも10倍太陽から遠く、その地表面温度はおよそマイナス180度であり寒い環境にある。よってタイタンの表面ではメタンが気体ではなく液体となって雨になり、メタンの川、メタンの湖を作っている。つまりタイタンの川や湖は有機物を豊富に含むということになるが、このような環境にアクリロニトリルがあると、アクリロニトリルの分子が数多く連なることで地球上の生物でいえば細胞膜のような構造ができると研究者の間では推測されている。

 

 アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのモーリン・パルマー氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡のデータアーカイブから、2014年2月から5月の間に観測されたタイタンのデータを集めて解析 。その結果アクリロニトリルが出す波長およそ1.3mmの電波輝線が3本含まれていることが明らかになったため、タイタンの大気にアクリロニトリルが相当量含まれていることが判明した。またアクリロニトリルがタイタン表面から200km以上の領域に分布していることもわかった。

 

 モーリン・パルマー氏は「メタンが液体になるような環境にアクリロニトリルが存在しているということは、地球生命の発生に重要な役割を果たした化学反応が、タイタンでも起きうるということを示すものです」とコメントしている。また「私たちは、今後もアルマ望遠鏡を使ってタイタンの大気をより詳しく調べる予定です。これまで見つかっていないもっと複雑な有機分子を探すと同時に、タイタンの大気循環を調べるのです。将来的には、この興味深い天体をさらに高い解像度で観測し、生命発生にかかわる化学反応にタイタンが適しているのかどうかも明らかにしたいと思っています。」と今後の抱負を述べている。

 

 

(C) NASA/JPL/Space Science Institute

上写真は探査機「カッシーニ」が撮影したタイタン