8月12日(土)

 

 自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの滝澤謙二特任准教授らの共同研究チームは、8日、赤色矮星まわりの系外惑星における生命居住可能性の指標として用いられる反射スペクトルの“レッドエッジ”が、従来の予想に反して地球の植生と同じ波長領域に現れる可能性が高いことを発表した。この研究成果は将来の系外惑星における生命探査観測において、生命が存在する兆候(“バイオマーカー”)を示す重要な指針を与えるとしている。

 

 生命を宿すことが可能な惑星(ハビタブル惑星)の探査の対象として、近年赤色矮星(M型星)と呼ばれる太陽質量の半分以下の低温度星が注目されている。太陽に近い恒星の多くは赤色矮星であり、可視光よりも波長の長い近赤外線が卓越。また太陽系外惑星の有力なバイオマーカーとして、陸上の植生が作るレッドエッジと呼ばれる反射スペクトル(単位はμm)がある。これまでは赤色矮星まわりの系外惑星のレッドエッジの位置は、地球に比べて近赤外線に移動すると予想されていた。しかし共同研究チームは植生の光合成機構の観点から、水中で発生・進化して最初に上陸する光合成生物は、赤外線が水で吸収されるため地球と同じように光合成に可視光を利用する可能性が高いと提唱。また共同研究チームは環境に合わせた生物の適応を考えるだけでなく、その適応状態に至るプロセスを検証することによって酸素発生光合成生物の誕生から陸上化までの過程で可視光利用が維持されることを示した。したがって赤色矮星まわりの系外惑星においても、地球の植生と同じ位置にレッドエッジが現れる可能性が高いと結論付けた。

 

 今後の課題は、水中において阻害される近赤外線利用型への植生の進化が、陸上においては速やかに進行するのかを、光合成の機能と進化プロセスの両面から検証することであるとしている。また、30メートル望遠鏡(TMT)や宇宙望遠鏡など将来の太陽系外惑星の観測装置が、可視光から近赤外線の広域波長をカバーし、赤色矮星におけるレッドエッジの位置が陸上植生の進化に合わせて長波長側にシフトしていくことを捉えるようにする必要があるとしている。

 

 

 

(C)自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター

上図はレッドエッジについて、従来と新たな研究のモデル。これまでは、赤色矮星まわりの惑星では可視光よりも豊富な近赤外線を利用することで、レッドエッジが地球とは異なり、長波長側に移動すると考えられていた(図右上)。しかし、水深1m以下では近赤外線の量が激減するため、そこで誕生した光合成生物は可視光を利用していることが考えられる。そこから近赤外線を利用するようになるためには、変動する光環境に対応するための新たな仕組みが必要となり、上陸に障害となる(図右側)。一方、可視光だけを利用する場合、水中から陸上への速やかな移行が可能となり、少ない可視光を利用する植物が最初に陸上に進出すると考えられる(図左側)。そのため、最初に陸上に進出した植物のレッドエッジは地球と同じ位置にあらわれる可能性が高いことを初めて提唱した。