8月20日(日)

 

 国立天文台は8月2日、国立天文台の林将央氏らを中心とする研究チームが、アルマ望遠鏡を用いて地球から94億光年の距離にある銀河団内にガスを豊富に含む銀河を17個発見したと発表した。またガスが豊富な銀河は、銀河団の中心部に存在せず外側に存在するため、他の銀河に比べてより最近銀河団に加わったことが明らかになった。この観測事実は、銀河団内に銀河が引き寄せられる過程でガスを失い、星形成が抑制されるといういわゆる“星の少子化”が進行していくシナリオを示唆するものとしている。

 

 観測対象となった銀河団はXMMXCS J2215.9–1738であり、星間ガスにわずかに含まれる一酸化炭素分子が放つ電波に注目して観測を行った。過去にはすばる望遠鏡の観測により、この銀河団に含まれる多くの銀河で星が作られていることが明らかになっていた。今回の観測結果が94億年前の姿であることを考えると、宇宙全体で星のベビーブームが起きている時代にある銀河である。一方我々が住む天の川銀河の近くにある銀河団、つまり現在の銀河団では、星形成活動をしていない銀河が大多数である。

 

 これまでの研究において銀河の中で星が作られるペースが138億年の宇宙の歴史の中で大きく変動していることがわかってきている。およそ120億年前から80億年前までの期間においては、銀河の中で非常に活発に星が作られていたのに対して、それから現在に至るまでは星形成活動が低下の一途をたどっている。いわゆる「星の少子化」が進んでいる。しかしどのようなメカニズムで星の少子化が進んでいるのかは明らかになっていない。

 

 また周囲の環境が銀河の進化にどのような影響を及ぼすのかという謎も残されている。銀河団の中には、巨大な楕円銀河が銀河団以外の場所と比較して高い割合で存在している。楕円銀河は新しい星がほとんど作られなくなった銀河であり、星の少子化が進んだ銀河の最終形態の一つ。銀河団に楕円銀河が多く存在する理由の一つとして考えられるのは、銀河団の環境が個々の銀河に影響を及ぼしていることである。しかし具体的にどのようなメカニズムで影響を受けているのかは未解明。

 

 これらの謎を解く手がかりは、遠方にある古い時代の銀河団銀河に含まれるガスの量や密度が、現在の銀河団銀河とどのように異なっているのか、何が原因で変化するのかを理解することである。研究チームは今回の観測結果から次のようなシナリオを描いている。まず銀河団は年数を経ていくにつれて多くの銀河が重力によって引き寄せられ、大きくなる。ガスが豊富な銀河はもともと銀河団の外にあったが、強大な重力に引かれて銀河団に引きずり込まれていく。銀河団は高温のガスに包まれているため、この中を移動する銀河は高温ガスの圧力を受ける。この時、銀河にもともと含まれていたガスが銀河団の高温ガスに押されて、銀河から剥ぎ取られてしまう。銀河に残ったガスは活発な星形成活動によって消費される。また銀河への新たなガスの供給も起きていないと考えられる。こうして星の材料であるガスがなくなり、最終的に星形成活動が止まる。現代の銀河団において星形成活動を起こしていない楕円銀河が多数存在することは、このシナリオに合致するものである。今回アルマ望遠鏡で検出されたガスが豊富な銀河は、まさにこの過程の途上にあると研究チームは考えている。星形成が活発であると確かめられた銀河団中心部の銀河も、残り少ないガスを消費して星を作りだしているとしている。

 

 研究チームの林氏は「銀河進化を理解する上で、ガスの分布を知ることが不可欠であるということが近年理論的にも観測的にも示されてきました。今回の観測で、銀河団中心から外れた領域にガスを豊富に含む銀河がたくさん存在するという事実を、十分な検出数をもって初めて示すことができました。今後、銀河団に含まれる銀河の進化を明らかにしていく道筋を示すことができたといえます。」とコメントしている。

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Hayashi et al., the NASA/ESA Hubble Space Telescope

アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測した、94億光年かなたの銀河団XMMXCS J2215.9–1738。アルマ望遠鏡が見つけたガスに富む銀河を赤色で表示している。これらの銀河が、銀河団の中心部(画像中央部)には存在しないことがわかる。