9月2日

 

 国立天文台は8月31日、フランス高等師範学校/パリ天文台のエディス・ファルガロン氏らのチームがアルマ望遠鏡による観測により、遠方の爆発的星形成銀河(以下、スターバースト銀河)において周囲を取り巻く大量の冷たいガスを発見したと発表した。観測対象は地球からおよそ110億光年の距離にあるスターバースト銀河6個であり、CH+分子イオンが放つ電波を検出したことにより判明。研究チームはCH+という分子イオンが放つ電波の検出に初めて成功させたとともに、スターバースト銀河において猛烈な勢いで進む星形成がどのように長続きするのかという問題に対して一つの解決策を見出したとしている。

 

 宇宙初期の銀河は我々の住む天の川銀河の数百倍という猛烈な勢いで星を生み出していたことが知られており、このような銀河はスターバースト銀河と呼ばれている。スターバースト銀河において猛烈な勢いで星を作った結果、できた星の光の圧力や超新星爆発の圧力などにより星の材料であるガスが銀河外に押し出されてしまい、爆発的星形成が長くは続かないことが予想される。しかし長期にわたって爆発的星形成を続ける銀河が存在していて、どのようにして星の材料を確保しているのかがこれまでに解明されていない。

 

 今回検出されたCH+分子イオンが作られるには高いエネルギーが必要であり、作られると他の分子や原子とすぐに化学反応を起こす。このため、CH+という形で存在できる時間は非常に限られていて、作られた場所からそれほど遠くまで運ばれることはない。つまりCH+の観測は、銀河やそのまわりでどのようにエネルギーが分布しているかを調べるのに適している。銀河のガスのなかでは、CH+は乱流運動が活発な場所で作られ、CH+が電波を放っている場所は高エネルギー領域であると考えられる。今回のCH+の観測から、銀河の中の星形成領域から高温高速のガス流(銀河風)が噴き出し、衝撃波を作り出していることがわかった。また銀河をおおうほどの規模の銀河風に蓄えられていたエネルギーが、これまで見えていなかった冷たいガスの乱流に形を変えていることがわかったとしている。

 

 

(C) ESO/L. Benassi

スターバースト銀河の周囲のガスの模式図。中心で非常に活発に星が作られていて(オレンジ)、ガスが噴き出している。噴き出したガスの中には乱流が渦巻いていて、銀河のまわりに分布している(緑)。これが今回CH+の電波観測によって明らかになったガスである。このほか、銀河の外からガスが流れ込む様子を描いている(青)。

 

 今回の観測結果から、スターバースト銀河の形成シナリオとして研究チームは以下のようなシナリオを考えている。まず銀河風は銀河の中を駆け抜け、衝撃波を作りながら星の材料であるガスを銀河の外に押し出すが、銀河自身の重力によって引き戻される。つまり銀河風に与えられたエネルギーによってガスが一方向に飛び出すのではなく、ガス内部の乱流としてエネルギーが消費されて、結果として銀河の重力を振り切ることができなくなる。こうして戻ってきたガスは、比較的低温低密度のガスとなって、銀河の周囲に3万光年以上の広がりを持って漂う。このガスは再び銀河の中に戻り、星の材料になると考えられる。研究チームのファルガロン氏は「私たちが導き出した結果は、銀河進化の理論に挑戦状をたたきつけるものになりました。冷たいガスの乱流を引き起こすことで、銀河風が爆発的星形成を止めるのではなく、むしろ長続きさせる作用があることがわかったからです。」と今回の観測結果の意義を強調した。

 

 研究チームの解析によれば、銀河風だけでは今回発見された冷たいガスを説明することができないようである。今後の課題として、これまでの理論的研究で示唆されていた通り、銀河衝突などによって外からガスをいくらか継ぎ足してやるモデルが必要であることを挙げた。

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/E. Falgarone et al.

アルマ望遠鏡が観測した、非常に遠方のスターバースト銀河。Cosmic Eyelash(宇宙のまつげ)というニックネームで呼ばれている。