9月17日

 

 国立天文台の但木謙一氏と東北大学の児玉忠恭教授を中心とする国際チームは11日、銀河の進化について、従来の定説である「銀河の衝突合体説」に加えて、別の進化経路があったことを示す決定的な証拠を発見したと発表した。すばる・ハッブル・アルマ望遠鏡による110億光年彼方の銀河の観測によって、銀河中心部で新たな星が爆発的に生まれていることを発見。この激しい星形成活動により、銀河は合体をしなくても自らその形を変えることができるとしている。

 

 銀河は天の川銀河のような円盤が目立つ銀河(円盤型)と中央部の星の集合体が目立つ銀河(楕円型)に大きく2つに分類することができる 。現在の宇宙にある巨大銀河の多くが楕円型に分類されるが、古い時代の銀河は過去の観測から大部分が円盤型であることがわかっている。古代の銀河がどのようにして円盤型から、楕円型に進化したのかは謎が残されており、銀河の多くの星々が生まれた100~110億年前の銀河を調べることが必要になる。そのためには100~110億光年離れた銀河を観測しなければならない。

 

 研究チームは銀河の進化を研究するべく、最初にすばる望遠鏡を使って110億光年彼方にある銀河を探した。口径8.2mのすばる望遠鏡の観測では銀河は点のようにしかみえないが、25個の銀河を発見した。そして、すばる望遠鏡の3倍の解像度を持つアメリカ航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡と、日米欧などが協力で運用するアルマ望遠鏡で観測を行い、その内部構造を描き出した。近赤外線を観測するハッブル宇宙望遠鏡は銀河を構成する星からの光を捉え、アルマ望遠鏡は星の材料である塵や分子ガスが放つ電波を捉えて、銀河のどこで新しい星が作られるかを調べることができる。

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, Tadaki et al.

アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観た110億光年彼方の銀河の観測画像。アルマ望遠鏡では、銀河の中心部に活発に星が作られている場所が特定された(画像左)。ハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像(中央)と近赤外線画像(右)では、それぞれ巨大な星団と広がった銀河円盤が見える。

 

 今回の観測により、ハッブル宇宙望遠鏡で観た110億光年彼方の銀河は大きな円盤状の形をしており、110億年前の時点ではまだ楕円形の銀河には進化していないことがわかった。またアルマ望遠鏡による高解像度データの解析から、これらの銀河の中心で新たな星が爆発的に生まれていることがわかった。推定される星形成活動の規模は天の川銀河の約40倍に相当する。これは銀河の形を変えるほど激しいものであり、円盤型から楕円型へ大きく変わりつつあると解釈できる。

 

 40年ほど前には、円盤型の銀河同士が衝突合体し、楕円型の銀河に進化するという銀河の衝突合体説が提唱され、現在では定説となっている。しかし今回観測した銀河は楕円形の銀河に進化しておらず、さらにヨーロッパ南天天文台が運用する口径8mの望遠鏡VLTの観測においても大規模な合体の兆候が見られないことが確認されている。したがって銀河には衝突合体をしない別の進化経路があったことを示す決定的な証拠になるのだとしている。

 

 

(C) 国立天文台

アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測した110億光年かなたの銀河の想像図。円盤を持つ銀河の中心部で、塵におおわれた中で活発に星が作られる。円盤部には、3つの巨大星団が見える(ハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像で見えている星団に相当)。