10月1日

 

 東京大学と京都大学を中心とする研究グループは、9月29日、アテルイ(*注1)等を用いたシミュレーションにより、太陽の34,000倍もの重さをもつ巨大ブラックホールが、ビッグバン後の超音速ガス流から誕生することを明らかにしたと発表した。この巨大ブラックホールが成長することで、これまでの観測で見つかった最遠方の宇宙に存在する超大質量ブラックホール(モンスターブラックホール)の起源と成長を説明することができるとしている。

 

 近年遠方の宇宙探査により、宇宙年齢が数億年という早期に存在したモンスターブラックホールが次々と発見されている。太陽の数十億倍もの超大質量ゆえにモンスターブラックホールと呼ばれているが、早期にどのようにして誕生したのかは大きな謎だった。

 

 過去には様々な形成過程が考えられてきたが、本研究グループはビッグバン後に残された超音速ガス流に着目。形成過程について以下のように説明している。まず宇宙の始まりの頃には、様々な天体を生み出す種となる物質密度の揺らぎとともに、高速のガス流が残されていた。宇宙を満たすダークマターはその重力によって集積することができ、宇宙年齢が1億年のころ、質量が太陽の2,000万倍もある巨大なダークハロー(*注2)を作り出した。この巨大なダークハローはその強い重力により高速のガス流を捕捉できるようになり、すぐに高温高密度で乱流状態にあるガス雲を生み出した。研究チームはこのような過程の基、スーパーコンピューターシミュレーションを用いてガスとダークマターの両方の運動を追い、さらには乱流ガス雲から原始星(*注3)が誕生して急速に成長する様子を再現した。

 

 

(C) テキサス大学オースティン校天文学科の平野信吾氏

上画像は、シミュレーションにより得られたブラックホール形成時のダークマター分布(背景)とガス分布(内側下3パネル)。
ダークマターが集積した巨大な「ダークハロー」が形成されるが、宇宙初期のガス流速度 (図では右方向) が大きな領域では高速のガスを捉えきれず、抜け出てしまう。最終的にブラックホールを生み出すガス雲も乱れた形状を保ちながら収縮する。

 

 太陽の数万倍もの質量をもつ乱流ガス雲の中では、誕生した原始星へ向けて高速のガスが流れ込み続ける。激しいガスの降着は中心星の表面を膨張させるため、表面からは可視光などのエネルギーの低い光が放出される。したがって、流入するガスを加熱して吹き飛ばすという星の成長の自己抑制機構は働かず、最終的にはガス雲全体が中心星に取り込まれ、巨大なブラックホールへと変化する。このように乱流ガス雲の中で成長し太陽の34,000倍もの質量をもつようになった巨大星は、その一生の最期に同質量の巨大ブラックホールに変化する。宇宙初期に誕生した巨大ブラックホールは、更にその後数億年ほどガス降着やブラックホール同士の合体を経て成長し、太陽の10億倍以上もの超大質量ブラックホールへと進化することができる。

 

 また本研究グループは新たにダークハローの形成時期や超音速ガス流の速度分布を理論的に求め、超大質量ブラックホールのもととなる巨大ブラックホールが宇宙に現れる確率を見積もった。その結果、これまでに発見された超大質量ブラックホールの観測数と一致することがわかった。

 

 今回宇宙初期のガスの超音速運動まで厳密に再現した初期宇宙進化のスーパーコンピューターシミュレーションを行うことで、超大質量ブラックホールのもととなる巨大ブラックホール誕生の過程を明らかにし、超大質量ブラックホールの出現をその観測数も含めて説明できることを確かめた。将来の遠方宇宙観測により、さらに初期のブラックホールを発見することで、ブラックホール成長の様子が実際の観測から示されることが期待されるとしている。

 

*注1 国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用するスーパーコンピューター Cray XC30 の愛称。2013年4月より利用開始され、2014年9月のアップグレードで理論演算性能が約2倍に向上した。天文学専用のスーパーコンピューターとしては世界最速の性能をもつアテルイは、「理論天文学の望遠鏡」として活躍している。本研究のシミュレーションはこの他に、筑波大学計算科学研究センターの運営するスーパーコンピューター COMA を利用して行われた。

 

*注2 主にダークマター (暗黒物質) からなる密度の高い領域。宇宙全体ではガスを含む一般的な物質よりもダークマターの方が多く存在するため、はじめにダークマターが集積して複雑な構造を作り出す。

 

*注3 およそ太陽の100分の1の重さを持つ、誕生直後の星。周囲に存在する大量のガスが重力によって取り込むことで、原始星は大きくなっていく。この成長がどれだけ続くかによって星の重さは決まる。