10月8日

 

 ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのエディス・ファヨール氏が率いる国際研究チームは3日、アルマ望遠鏡を用いた観測により、生まれたばかりの赤ちゃん星が集まるIRAS 16293-2422のまわりでクロロメタン(CH3Cl(* 3は下付数字))(*注1)を発見したと発表した。またヨーロッパ宇宙機関の彗星探査機ロゼッタによる観測でも、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星においてクロロメタンを発見したと発表した。この観測結果は、生命が存在しない彗星や赤ちゃん星のまわりで自然にクロロメタンが作られ、十分長期にわたって壊れずに存在し続けることを示している。したがって今後もし太陽系外惑星大気中にクロロメタンが見つかったとしても、生命存在の証拠になりえない可能性があるとしている。

 

 クロロメタンは、メタン(CH4 (*4は下付数字) )の水素の一つが塩素(Cl)で置き換えられた状態になっていて、有機ハロゲン化合物の一種である。地球上では人間が工業的に作り出しているほか、微生物がその生命活動の一環として作り出しているが、宇宙にもこの分子が多く存在することが今回の発見で明らかになった。

 

 アルマ望遠鏡による観測でクロロメタンが発見されたIRAS 16293-2422は、生まれて100万年程度の赤ちゃん星が連星系をなしている「原始連星系」である。地球から見ると、へびつかい座の方向およそ400光年の距離にあり、その周囲には星の材料になるガスや塵が多く残されている。この原始連星系は非常に多様な分子が存在していて、これまでにもっとも単純な糖類分子であるグリコールアルデヒドや、アミノ酸の材料となるイソシアン酸メチル(CH3NCO(* 3は下付数字))が発見されている。

 

 今回の観測結果についてファヨール氏は、「これほど若い星のまわりで有機ハロゲン化合物が見つかるとは、予想外でした。しかも、大量に見つかったのです。今回の観測で、星が生まれる場所では、こうした分子が簡単に大量にできることが初めてわかったのです。これは、私たちの住む太陽系やその他の惑星系の化学的進化を読み解くうえで重要な発見です。」とコメントしている。共同研究者のカリン・ウーベル氏は、「アルマ望遠鏡による有機ハロゲン化合物の発見は、できたばかりの惑星の上での化学反応がどんな初期条件で始まるのか、ということにヒントを与えてくれます。今回の研究によれば、有機ハロゲン化合物はいわゆる「原初のスープ」の構成要素だったと考えられます。」とコメント。原初のスープとは、地球や他の岩石惑星ができたばかりのころにあった大気のことであり、生命の材料を含んでいたと考えられている。

 

 またもう一つの重要な発見として、アルマ望遠鏡とロゼッタの観測結果を比較すると、クロロメタンの存在比率がほぼ同じであることが挙げられた。彗星は太陽系誕生時に惑星になりきれなかった残り物であり、昔の化学的特徴を保持していると科学者の間では考えられており、今回の観測結果はこの考えを支持するものである。このことについてファヨール氏は、新たな疑問として彗星で見つかる有機物のうちのどれくらいの割合が、星が生まれた時代からずっと残っているのかを挙げている。他の赤ちゃん星や彗星で有機ハロゲン化合物を探すことで、この謎の答えを得ることができるとしている。

 

 

*注1 クロロメタンは別名フロン40とも呼ばれ、以前は冷蔵庫などのための冷媒として広く使用されていたが、高い毒性を持つため現在では利用されなくなっている。

 

 

(C) B. Saxton (NRAO/AUI/NSF) ; NASA/JPL-Caltech/UCLA

赤外線天文衛星WISEが観測したへびつかい座の星形成領域。画像左寄りに原始連星系IRAS 16293-2422がある。枠内は、クロロメタンの分子構造の模式図。

 

 

(C) B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

探査機ロゼッタがクロロメタンを発見した時の、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星と太陽・地球の位置の概略図。枠内は、クロロメタンの分子構造の模式図である。