11月3日

 

 瀧川晶京都大学白眉センター特定助教らの研究グループは、10月30日、アルマ望遠鏡による漸近巨星分枝星であるうみへび座W星の観測により、この星の周りにおいてAlO(酸化アルミニウム)ガス分子とSiO(ケイ酸)ガス分子の分布を高い精度で捉えることに成功したと発表した。これらのガス分子の分布の解析が、酸化アルミニウムダストが豊富でケイ酸塩ダストに乏しい漸近巨星分枝星でのダスト形成の謎を解く鍵となるとしている。

 

 太陽のようにあまり質量が大きくない恒星は、その晩年に大量のガスや固体微粒子(ダスト)を宇宙空間へ放出する。この漸近巨星分枝星は銀河系における金属元素の主要な供給源として重要な役割を担っている。宇宙の中でケイ素はアルミニウムに比べ10倍近く豊富な元素だが、漸近巨星分枝星の中には少ないはずの酸化アルミニウムダストが豊富で、多く含まれるはずのケイ酸塩ダストが少ないものが数多く観測されている。このような逆転現象が観測される理由は謎に包まれたままであった。

 

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Takigawa et al.

アルマ望遠鏡で観測したうみへび座W星。星とその周囲のSiO分子が放つ電波を赤、AlO分子が放つ電波を黄色で着色。SiO分子が大きく広がっていることがわかる。

 

 アルマ望遠鏡による漸近巨星分枝星であるうみへび座W星の観測(画像1)によって、この星のAlOガス分子の分布は中心星近傍のダスト分布とよく一致し、AlOガスから酸化アルミニウムダストが過去の観測通り形成されていることがわかった。一方でSiOガス分子は5恒星半径以遠まで拡がっており、研究チームはガスからケイ酸塩ダストが作られる割合が低いことを発見した。恒星の近くで形成・成長した酸化アルミニウムダストが恒星からの光を受けて質量放出風の加速を助け、結果としてSiOガス分子からケイ酸塩ダストの形成を妨げたとしている。またうみへび座W星だけでなく、多くの酸化アルミニウムに富む漸近巨星分枝星においても同様のことがおこっていると考えられている。酸化アルミニウムの形成が漸近巨星分枝星の質量放出風の加速やケイ酸塩ダストの形成効率に影響を及ぼすという結果は、銀河系における物質循環を理解するためには、異なるタイプの恒星毎にダスト形成の違いを考えなければならないことを示している。

 

 本結果により恒星の周りのダストを調べるために、ダスト自体を調べるだけでなく、ダストを形成するガス分子を観測することも重要であることが示された。研究チームは恒星の周りでのダスト形成を理解するためには、今後もアルマ望遠鏡を使って、多様なガス分子とそれらの恒星近傍における化学反応を調べることが必要であると指摘した。

 

 

( C ) 瀧川晶氏(京都大学)

中心星の近くで酸化アルミニウムが形成・成長し、さらにケイ酸塩ダストの一部が凝縮することで、質量放出風の加速がおこる。加速した恒星風の中ではさらなるケイ酸塩ダストの形成は阻害される。