12月17日

 

 国立天文台は12日、JIVE (*1) 所属のRoss A. Burns氏を中心とした研究チームが、VLBI(*2)を用いた大質量星形成領域AFGL 5142の水メーザー(*3)観測により、その領域中の天体距離を、年周視差計測の結果に基づいて、2.14+0.051-0.049kpc (=6980 光年)と高精度に求めることに成功したと発表した。またAFGL 5142におけるアウトフローが不定間隔に噴出し、その噴出間隔は短くて10年程度、長くて100年以上と非常に幅広いことが判明し、大質量星が軽い星と同じ仕組みで形成・成長可能なことを示唆する重要な観測結果になったと発表した。

 AFGL 5142は、ぎょしゃ座に位置する大質量星形成領域で、東西南北の計3方向に噴出する複数のアウトフロー(物質の流出)が確認されている。複数の赤ちゃん星(原始星)が存在していることと、現在もなお活発な星形成活動が行われていることで有名な天体である。

 

 研究チームは「大質量な星(*4)は、太陽程度の軽い星と同じ仕組みで形成・成長出来るのか?」という、現在もなお謎の多いテーマに新たな知見を与えることを目的として、2014年4月~2015年5月にかけて、AFGL 5142に対する約1年にわたる計7回の水メーザーVLBI観測を実施した。その結果、これまで曖昧だったAFGL 5142の天体距離を、年周視差計測の結果に基づき2.14+0.051-0.049kpc (=6980 光年)と高精度に求めることに成功した。また、過去のVLBA(*5)を用いた観測で検出されたAFGL 5142水メーザーの内部固有運動に加え、新たな水メーザー成分の検出と内部固有運動の計測にも成功したとしている。この観測結果からは、AFGL 5142におけるアウトフローが不定間隔に噴出し、その噴出間隔は短くて10年程度、長くて100年以上と非常に幅広いことも判明したとしている。

 

 今回の観測結果は、軽い星の形成領域でよく観測されている不定間隔なアウトフローが、大質量星の形成領域においても見られることを示し、同時に、原始星の成長に欠かすことの出来ないガスの質量降着も不定間隔な現象である可能性を示唆しているとしている。よって、大質量星が軽い星と同じ仕組みで形成・成長可能なことを示唆する重要な観測結果になった。

 

 研究チームは今後、VLBIにより同様な観測サンプルを増やしていくことで、大質量星の形成と成長に対する統一的な理解の進展が期待されると今後の抱負を述べている。

 

*1: the Joint Institute for VLBI European Research Infrastructure Consortium
*2: Very Long Baseline Interferometry(超長基線干渉計) の略称。直訳すると「とっても長い基線をもつ干渉計」という意味。
*3: 誘導放射により増幅されたコヒーレントな光をレーザーとよぶ。メーザーとはその電波版である(Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)。宇宙の星間空間には多種多様な分子が存在するが、一酸化珪素や水酸基、メタノールなどの分子は、ある種の星の周辺で反転分布(エネルギーの高い準位に、より多くの粒子が滞在する状態。ボルツマン分布との違いに注目)を実現し、「天然のメーザー発生器」となる。水分子もメーザーを放射するが(これが水メーザー)、星の周辺のみならず活動的な銀河の中心核付近でも検出され、かつ、きわめて強力なため(1本の輝線で太陽光度の数100倍に相当するエネルギーを担うこともある)、水メーザーの高空間分解能観測を通して超巨大ブラックホールの存在を暴き出し、その質量を精密に計測することが可能となる。

*4: 太陽に比べ8倍以上の質量を有する星
*5: Very Long Baseline Array : アメリカの超長基線干渉計観測網

 

(左)AFGL 5142の中間赤外線3色合成図。出典:NASA/IPAC Infrared Science Archive, Spitzer, IRAC
(右)アンモニア輝線の空間及び温度分布(赤い部分はアウトフロー(白い矢印)により生成されたショックで暖められていると推定)を示している。中心付近に複数の原始星が混在。出典:Zhang, Q., et al., (2007), ApJ, 658, 1152

 

 

(C) 国立天文台

VERAの水メーザー観測結果。色付きの点が、各水メーザー成分を表し、色の違いは視線方向の速度に相当(青色が観測者に向かってくる方向)。矢印は本観測で検出された固有運動の向きと大きさを表している。左下図は、上図の破線で囲んだエリアの拡大図。右下図は、同様なエリアの拡大図で、赤色が本観測の水メーザー分布を、青色が過去にVLBA観測(2004年)で得られた水メーザー分布を表している。約10年に及ぶ観測の間で、水メーザーの出現位置が異なっていることから、中心位置(原始星の位置を示唆)からの不定間隔なアウトフロー噴出の様子が伺える。