2月3日

 

 国立天文台は1月12日、国立天文台研究員のアンドレアス・シュルツ氏が率いる研究チームが超大質量ブラックホールの周囲と降着円盤から放射された酸素イオンの光の強さを測定した結果、ブラックホールの自転がブラックホールの両極から吹き出している高速ジェットの形成に役立っている可能性があることを見出したと発表した。

 

 ブラックホールは光を含むすべての電磁波を吸収するため、その姿を直接見ることはできない。しかしブラックホール周辺では、その中心へ向かって落ち込みながら超高温になった物質で降着円盤が作られ、そこからの光を見ることができる。多くの銀河中心には太陽の数百万倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在し、降着円盤を持つブラックホールは電波を放つ天体として観測される。このような天体は“クエーサー”と呼ばれる。電波が強いクエーサーでは、降着円盤内の物質の一部がブラックホールに落ち込まず、ブラックホールの両極から高速のジェットとして吹き出していると考えられているが、どのようにジェットが形成されるのかは謎が残されたままである。

 

 国立天文台研究員のアンドレアス・シュルツ氏が率いる研究チームは、超大質量ブラックホールの自転が高速ジェットの形成に役立っている可能性について研究を行った。ブラックホールの周囲と降着円盤から放射された酸素イオンの光を調べ、その強さを測定。酸素イオンの光の強さから、中心のブラックホールの自転速度を計算できる。8000個近くのクエーサーを解析した結果、電波が強いクエーサー、つまり高速ジェットを伴うブラックホールは、そうでないクエーサーに比べて酸素イオンの光が平均で1.5倍ほど強いことを見いだした。これはブラックホールの自転がジェットの形成に重要な要素であることを示唆している。シュルツ氏は「この研究結果はもちろん、電波が強いクエーサーと弱いクエーサーの違いがブラックホールの自転だけで決まっているという意味ではありません。しかし、自転を抜きに考えることができないことは確かです。宇宙の遠方から届くブラックホールという怪物の声の大きさをその自転速度が決めている可能性があるのです」とコメントしている。

 

 

(C) 国立天文台

 超大質量ブラックホールの周りの降着円盤の想像図。ブラックホールの自転が、強い電波放射の源となる高速ジェットの形成に関与していると考えられる。