2月10日

 

 国立極地研究所は6日、国際共同研究グループ(日米の大学等)が、カナダで観測された明滅する陽子オーロラが、宇宙で発生する電磁波として知られる電磁イオンサイクロトロン波動の最も速い電力変化(1秒程度)と同じ周期で高速に明滅していることを世界で初めて発見したと発表した。電磁イオンサイクロトロン波動は、イオンが磁力線の周りを巻き付いて運動すること(サイクロトロン運動)により発生する電磁波。

 

 オーロラは宇宙空間から地球へと運ばれてきた電荷を持った粒子が、高度100キロメートル付近の超高層大気と衝突したときに起こる発光現象(画像1)である。一般的に我々が目視で地球上において観測できるオーロラは、マイナスの電荷を持った電子の衝突により発光する電子オーロラであり、カーテン状や雲状などさまざまな形態がある。中には1秒以下で明滅するタイプのオーロラも存在する。その一方プラスの電荷を持った陽子の衝突による発光現象は、陽子オーロラと呼ばれる。陽子オーロラは電子オーロラに比べて暗いため観測が難しく、どのような時間変化をするか等については大きな謎であった。

 

 今回研究グループは、通常のCCDカメラよりも高速・超高感度を有するEM-CCDカメラとStockwell変換と呼ばれる信号解析法を併用することで、暗い陽子オーロラの詳細を調べることに成功。そして、オーロラ・電磁波観測ネットワークPWINGの国際拠点の一つであるカナダのアサバスカ観測点で観測されたオーロラの高速撮像(1秒間に110枚撮像)のデータと、同じ観測点で観測された宇宙空間からやってくる微弱な電磁波のデータ(画像2)から、宇宙からの電磁波の一種である電磁イオンサイクロトロン波動と同じ周期で陽子オーロラが明滅していることを世界で初めて明らかにした(画像3)。この研究成果は、地球周辺での宇宙空間において電子だけでなく、陽子も激しく時間変化していることを示す。したがって陽子オーロラを観測することによって、宇宙空間の通常よりも高いエネルギーの陽子の時空間変化を地上から知る手掛かりが得られ、地球周辺の宇宙環境を明らかにする上で重要な知見になるとしている。またこの電磁イオンサイクロトロン波動は、宇宙の放射線(放射線帯電子)を変調させ、大気に散乱させる効果があることが知られており、今後、宇宙の放射線の動態を解明するのにも貢献することが期待されるとしている。

 

 また研究チームは、2016年12月に打ち上げられた科学衛星「あらせ」と特別推進研究によるオーロラ・電磁波観測ネットワークPWINGとの共同観測により、陽子オーロラの詳細を今後明らかにしていくと抱負を述べた。

 

 

 

画像1 (C) 国立極地研究所

カナダで観測された電子オーロラと陽子オーロラ(オーロラを強調するためにカラースケールを調整している)

 

 

画像2 (C) 国立極地研究所

陽子オーロラと電磁イオンサイクロトロン波動の観測イメージ。宇宙で発生した電磁イオンサイクロトロン波動は磁力線に沿って伝搬する性質を持っており、地上からも電磁波センサーによって観測することが可能である。

 

 

画像3 (C) 国立極地研究所

2016年1月2日観測されたオーロラ光の明滅変動(上)と宇宙の電磁イオンサイクロトロン波動に相当する地上の地磁気脈動の電力変動(下)。この図より、電磁波の電力変化が強くなる6:09~6:17の期間に、オーロラ光も電磁波と同じ周波数帯で明滅していることがわかる。観測された周波数帯は約1ヘルツ(Hz)で、これは約1秒のオーロラ明滅を意味する。