2月17日

 

 国立天文台は14日、国立天文台及び鹿児島大学からなる研究チームがアルマ望遠鏡による電波観測により、渦巻銀河M77(くじら座の方向およそ4700万光年の距離)の中心核を観測し、超巨大ブラックホールのまわりを大きく取り巻く半径約700光年の馬蹄形をしたガス雲とドーナツ状に取り巻く半径およそ20光年の分子ガスを捉えることに成功したと発表した。さらにドーナツ状に取り巻く分子ガスが、ブラックホールを中心に回転している様子を捉えることにも成功したと発表した。今回の発見は銀河の中心に存在する超巨大ブラックホールの活動と周囲の銀河に与える影響を調べる際の基礎となる重要な成果であるとしている。

 

 宇宙に存在するほぼすべての銀河の中心には、太陽の数十万倍から数億倍の質量をもつ超巨大ブラックホールが存在し、その質量と、それを含む銀河全体の質量には相関関係ががあることが明らかになっている。この事実に基づき研究者は、超巨大ブラックホールと銀河が互いに影響を及ぼしあいながら進化してきた(共進化)と考えている。しかし銀河全体からみると超巨大ブラックホールの大きさは百億分の一と極めて小さく、どのように影響を及ぼしあっているのかは、まだよくわかっていない。

 

 共進化を理解するうえで重要な観測天体は、大量の物質を飲み込んで成長している超巨大ブラックホールである。超巨大ブラックホールの周囲は、落下してくる物質の重力エネルギーを光に変えて明るく輝くメカニズム(*注1)が働いていて、「活動銀河核」と呼ばれる。活動銀河核からは非常に強い光が放たれ、ときに高速のガス流を噴き出すことから、周囲の銀河環境に大きな影響を与えると考えられている。よって活動銀河核を含む超巨大ブラックホールは、共進化の謎を解く鍵となる天体になるのである。また活動銀河核のいろいろな特徴を自然に説明できるため、超巨大ブラックホールのまわりにガスと塵の雲がドーナツ状に取り巻いていると多くの研究者によって考えられていた。これは、「活動銀河核の統一モデル」と呼ばれる。

 

 共進化の謎を解明すべく高い解像度による超巨大ブラックホールの観測が必要になる。私たちが住む天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールは、落ち込む物質の量が非常に少なく、弱い活動しかしていない。よって活動銀河核の様子を理解するには、遠方にある別の銀河の中心核を高い解像度で観測する必要があった。

 

 今回研究チームが観測したのは、シアン化水素(HCN)とホルミルイオン(HCO+)が放つ電波。これらの分子は、高密度のガス雲で強く電波を出すことが知られており、「これまでの観測からドーナツ状の塵やガス雲が東西方向に広がっていることは確かであり、私たちのデータはその分布から期待される回転のようすとよく一致します。」と、研究チームの代表者である今西氏はコメントしている。

 

*注1 このメカニズムは、水力発電にたとえられる。水力発電では、高い場所にある水を低い場所に落とし、そのエネルギーでタービンを回して発電する。これは地球の重力エネルギーを活用した事例である。活動銀河核の場合は高い場所(ブラックホールから遠い場所)にあるガスが、ブラックホールの重力に引かれて低い場所(ブラックホールに近い場所)に移動していき、この際の重力エネルギーの変化量が最終的には熱に変換され、高温になったブラックホールの周囲のガスから非常に強い光が発せられる。

 

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Imanishi et al., NASA/ESA Hubble Space Telescope and A. van der Hoeven

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した渦巻銀河M77の中央部。そのさらに中心部分をアルマ望遠鏡が観測し、超巨大ブラックホールを取り巻くガスの分布を写し出した。半径約700光年の馬蹄形をしたガス雲と、その中心にある超巨大ブラックホールを包む半径約20光年のコンパクトなガス雲が見えている。アルマ望遠鏡による観測で、このコンパクトなガス雲の回転を初めてしっかり捉えた。アルマ望遠鏡で観測したHCO+分子(ホルミルイオン)の電波を赤色、HCN(シアン化水素)分子の電波を緑色で示している。

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Imanishi et al.

アルマ望遠鏡が観測した、M77中心の超巨大ブラックホールを取り巻くガス雲の運動。私たちに近づく方向に動くガスを青、遠ざかる方向に動くガスを赤で着色している。超巨大ブラックホールの位置を中心に、ガスが回転していると考えられる。