2月17日

 

 JAXAは15日、東京大学の笠原教授を中心とする研究チームが、ジオスペース探査衛星あらせ(ERG)の電子・プラズマ波動データの解析結果から、明滅するオーロラの物理プロセスを明らかにしたと発表した。このプロセスは、磁気圏内を往復運動する電子がプラズマ波動によって揺さぶられ地球の大気に向けて降り注いでいくというもの。

 

 高緯度地方の夜空を覆うオーロラ嵐は、磁気圏に蓄えられた太陽風(*注1)のエネルギーが急激に解放されることで生じる現象である。典型的なオーロラ嵐ではまず夕方から真夜中にかけてカーテン状の明るいオーロラが現れる。これが爆発的に舞ったのちに、朝側では淡く明滅する斑点状のオーロラが現れて舞い乱れる。斑点1つのサイズは数十から数百kmで、高度100 km程度に現れ、数秒から数十秒の周期で明滅(脈動)を繰り返す。この明滅するオーロラ(脈動オーロラ)は、磁気圏の高エネルギー電子(数十キロエレクトロンボルト)が高度100km付近の上層大気に向けて降ったり止んだりして生じている。電子が降り込むと、そのエネルギーで励起された大気の原子・分子が発光するのである。しかし、そのような電子の間欠的な降り込みが磁気圏のどこで、どのように起こっているかが謎であった。通常、磁気圏内の電子は磁力線方向に沿った南北運動を繰り返しており、地球の大気に降ってくることはないからである。

 

 ところが何らかの理由で往復運動が破れ、電子が地球の大気に到達することがある。この往復運動を破るメカニズムの違いが、オーロラの多様性を生みだす。特に脈動オーロラの場合は、「コーラス波動 (chorus waves)」と呼ばれるプラズマ波動の一種が、電磁力で電子の往復運動を破り、大気への降り込みを駆動するものと考えられてきた。しかしながら、そのような「電子の往復運動の破れ」の現象を過去に観測した例がなかった。

 

 研究チームは電子の間欠的な降り込みが磁気圏のどこでどのように起こっているのかを解明すべく様々なデータを解析。この問題に挑むため、ジオスペース探査衛星あらせ(ERG)によるプラズマ観測と、米国のTHEMIS地上全天カメラによるオーロラ観測が、同時に実施された事例のデータを解析した。その結果、間欠的に発生するコーラス波動と同期するようにして、降り込み電子も大きく変動する(コーラス波動が強まると、降り込み電子が現れる)様子を明瞭に捉えることに成功した。また磁気圏内であらせが捉えた降り込み電子の変動と、全天カメラの捉えたオーロラ明滅との同期も期待されていたが、実際に、それらの強度の間に相関関係があることも確認できた。このように、(1)コーラス波動の発生 、(2)波動による電子の揺さぶり、「往復運動の破れ」、(3)電子の大気への降り込み、(4)オーロラの発光、という一連のプロセスが間欠的に起きることで、明滅するオーロラが発生していることが決定的になったのである。

 

 この電子の降り注ぎが、いつどのようにして起きるかを今後詳細に調べることは、オーロラの多様性を理解する上で重要であるとともに、宇宙空間で普遍的に起きているプラズマ波動と電子の相互作用の詳細な理解につながるとしている。またこれらの詳細な理解が、木星や土星といった他の惑星の磁気圏も含めて、宇宙空間で起きているプラズマ現象の詳細な理解にもつながることが期待されると、研究チームはコメントした。

 

*注1 太陽から吹きだすプラズマ(電子と陽子)の風のこと。平均的な速度は秒速500km程度。プラズマが太陽の磁場を引きずり出すようにしながら地球磁気圏に吹きつけることで、太陽風のエネルギー(の一部)が地球磁気圏内に蓄えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

(C) ERG science team

 

(a)磁気圏内で磁力線に沿って往復運動する電子。(b)コーラス波動の電磁力により往復運動が破られ、磁力線に沿って大気に降り込もうとする電子。(c)降り注ぐ電子で発生するオーロラ。