2月24日

 

 国立天文台は20日、国際研究チームが銀河中心部から垂直に電離ガスを激しく放出している銀河をアルマ望遠鏡によって観測した結果、銀河に含まれる一酸化炭素ガスの検出に成功したと同時に、この一酸化炭素ガスが銀河中心からの激しい電離ガス流の影響をほとんど受けずに銀河中に存在していることが明らかになったと発表した。これまでは超巨大ブラックホールが存在する銀河中心部からの高速ジェットと呼ばれる電離ガス流が、銀河周囲の分子ガスの運動や星形成活動に大きな影響を及ぼすと考えられていた。しかし今回の結果は、超巨大ブラックホールと銀河は必ずしも影響を及ぼし合っていないことを示唆している。

 

 最近の研究から、ほぼ全ての銀河の中心部に太陽の数十万倍から数億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが潜んでおり、その質量は銀河の質量と相関関係があることがわかっていた。したがって銀河とその中心に潜む超巨大ブラックホールがお互いに影響を及ぼし合いながら成長してきた(共進化)と研究者の間では考えられていた。この銀河進化の全貌を正しく理解するために、超巨大ブラックホールがどのような物理過程を経て銀河全体に影響を及ぼし、共進化しているのかを理解することが必要不可欠。そこで共進化の理解を深めるために、超巨大ブラックホールからのガス流が観測対象として注目された。ガス流は超巨大ブラックホールが存在する銀河中心部からの強力な放射によって周囲のガスが電離(注1)されて吹き飛ばされる現象であり、星の材料となる周囲の分子ガスを圧縮して星形成活動を促進したり、逆に分子ガスを拡散させて星形成活動を抑制したりすると考えられている。

 

 研究チームは、WISE1029(50億光年彼方にあり、電離ガスが毎秒約1500kmで流れ出ている)と呼ばれる、塵に覆われた銀河(Dust-obscured galaxy: DOG) をアルマ望遠鏡により観測した。その結果、一酸化炭素および低温の塵が放つ電波を捉えることに成功。そして詳しい解析の結果、分子ガスの激しい運動が見つからず、星形成活動の促進の様子も抑制の様子も見つからなかった。このことは、WISE1029に潜む超巨大ブラックホール起源の強力な電離ガス流が周囲に特別な影響を及ぼしていないことを示唆している。

 

 研究チームは、このような状況を生み出す可能性の一つとして、電離ガスの流出方向が分子ガスの存在領域と大きく異なっていることを挙げている。分子ガスは銀河の円盤部に存在すると考えられるため、例えば電離ガスが銀河円盤とほぼ垂直方向に吹き出していれば今回の結果が説明できる。

 

 これまで、超巨大ブラックホール起源の電離ガス流が銀河周囲の分子ガスに大きな影響を与えている報告は多数あったが、今回のように激しい電離ガス流と分子ガスがお互いに影響を及ぼし合っていない様子が捉えられたのは非常に珍しいことである。これまでの研究では、超巨大ブラックホールからのガス流が周囲の分子ガスや銀河の星形成活動に何らかの影響を与えていることが当然のように考えられていたが、その例外を発見したという今回の結果により、超巨大ブラックホールと銀河の共進化の謎がより一層深まったと言える。

 

 国際研究チームの台湾中央研究院天文及天文物理研究所の鳥羽儀樹氏は、「今回見つかったような天体が宇宙にどれくらい存在するのかを理解することが、共進化の謎に迫る大きな一歩だと考えています。アルマ望遠鏡を用いた観測を継続することで、その答えを得る事ができると期待しています」と今後の抱負を述べた。

 

*注1 紫外線やエックス線の影響で中性ガスがプラズマ化される現象。

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

今回の観測をもとに描いた銀河WISE1029の想像図。銀河中心部から電離ガス流が激しく噴き出しているが、銀河円盤と垂直の方向に流れ出しているため、円盤内の分子ガスに影響を与えていない様子を表現している。