3月13日

 

 国立天文台は4日、国立天文台及び大学研究者からなる研究グループがすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCを用いて、約120億光年離れた宇宙におよそ200個の原子銀河団を発見したと発表した。またこれらの原始銀河団の質量を測定した結果、これらの原子銀河団が成長して現在の銀河団になるという仮説とうまく一致するものであることを発見した。さらに、これらの原始銀河団領域中にはクェーサーがほとんど存在しないことから、銀河同士の合体がクェーサーを生み出すという従来の仮説に大きな疑問を呈する結果も得られたとしている。

 

  宇宙には渦巻銀河や楕円銀河などの多種多様な銀河が存在している。そしてこれらの銀河の性質はまわりの環境の性質と密接に関係している。現在の宇宙では、数十個以上の銀河が密集する銀河団のような領域には、年老いた重い楕円銀河が多く存在する一方で、銀河があまり存在しない領域には、活発に星形成をしている若い渦巻銀河が多く見られる。このような銀河及びそのまわりの環境の関係がどのようにしていつ生まれたのかは、現代天文学の大きな謎である。

 

 環境が銀河進化に与える影響を解明するためには、現在の宇宙に存在する完成した銀河団だけではなく、銀河・銀河団が成長しつつある過去の姿を遠方宇宙の原始銀河団の観測を通して直接調べることが重要である。また遠方宇宙での銀河進化に影響を及ぼす環境効果の理解のためには、原始銀河団の大規模な地図を作る必要がある。そこで研究グループは、HSC を用いて、遠方宇宙における原始銀河団の探査を行った。その結果約120億年前の宇宙に原始銀河団を 200 個近く発見し、しかもそれらが不均一に分布することを明らかにした。またこれらの原始銀河団の分布を解析し、原始銀河団を包み込む暗黒物質の塊であるダークマターハローの質量を推定することにも成功した。推定されたダークマターハローの質量は太陽質量の 10 兆倍以上であり、これらの領域がいずれ銀河団 (太陽質量の 100 兆倍) に成長することを強く示唆するものであるとしている。

 

 さらに研究グループは、HSC の観測で得られた原始銀河団の大規模地図を使って、原始銀河団とクェーサーとの関係についても調査。クェーサーとは、その中心に存在すると考えられる超巨大ブラックホールが周囲のガスを大量に飲み込む過程で、重力エネルギーの解放によって非常に明るく輝いている天体である。HSC によって観測した原始銀河団と同じ時代に見つかっている120 億光年前の明るい遠方クェーサー 151 個を利用し、両者の位置関係を調べた結果、原始銀河団に属する明るいクェーサーはほとんどないことが判明した。さらに、最も明るいクェーサーは原始銀河団を避けるように分布することも初めて明らかになった。これらの結果は、銀河が衝突合体する時にブラックホールがその銀河のガスを大量に飲み込んでクェーサーが現れるという従来の予想とは異なり、銀河の衝突を原因としない別のクェーサー発現メカニズムが必要である可能性を示唆する。一方ではクェーサーからの明るい放射によって周囲の銀河成長が抑制されたために周囲に銀河が観測されなかった可能性も考えられる。複数の発現メカニズムが考えられることから、原子銀河団とクェーサーとの関係は今後も議論が必要である。
  
 もう一つ興味深い発見として研究グループは、原始銀河団において偶然発見されたクェーサーのうち4個は「ペア」として存在していたことである(図2)。このペアが原始銀河団中に発見されたことにより、原始銀河団中では単体ではなく複数の超巨大ブラックホールが同時に活動的になりやすいという新たな可能性が示された。

 

 研究グループリーダーの柏川氏(国立天文台)は「HSC の広く深い観測によって、私たちはかつてない数の原始銀河団を見つけ、さらに活動的なブラックホールが属する環境の多様性について、極めてユニークかつ新しい発見をすることができたのです」とコメントしている。

 

図1 (C) 国立天文台

HSC サーベイ (探査観測) により明らかにされた約 120 億年前の銀河の分布と原始銀河団領域の拡大図。図の青色から赤色は、銀河の低密度から高密度領域を表し、拡大図上の白丸は実際の銀河の位置を表す。特に赤い領域は将来的に銀河団になると予想される原始銀河団である。すぐ近くに中程度の高密度領域を伴っている場合や、フィラメント状の分布が伸びているような原始銀河団もみられる一方で、孤立しているものなど様々な特徴を持った原始銀河団を見ることができる。

 

 

 

図2 (C) 国立天文台

2つのクェーサーペアと周囲の銀河分布。星印はクェーサー、丸印と点はそれぞれ明るい銀河と暗い銀河を示す。等高線が平均に対する銀河の密度超過を示し、中心のペア周囲が高密度になっていることがわかる。