3月15日

 

 理化学研究所、JAXA、国立環境研究所、東京大学、九州大学らからなる研究グループは、13日、スーパーコンピュータ「京」を用いた大気シミュレーションによって大気中の粒子状のチリ「エアロゾル」が増加しても必ずしも雲は増加しないことが明らかになったと発表した。

 

  エアロゾルは森林火災などの自然活動や化石燃料燃焼による人間活動によって大気中に放出される。エアロゾルは雲の核になり雲粒を形成する。雲粒は雲の寿命や太陽光の反射・吸収といった特性を変化させるため、気候変動に大きな影響を及ぼす。このようなエアロゾルが雲に与える影響を「エアロゾル・雲相互作用」と呼ぶ。エアロゾル・雲相互作用の見積もりは非常に難しく、大きな不確実性があった。また一般的にはエアロゾルの濃度が増加すると雲も増加すると認識されていた。しかし近年の衛星観測によってエアロゾルが増加しても必ずしも雲が増加しないことが明らかになっていた。

 

 研究グループは衛星観測結果を忠実に再現することが可能かどうか検証すべく、全球大気モデル及びエアロゾルモデルを結合させて、1区切りが14kmの水平格子間隔を採用し、長期間のシミュレーションを実施。その結果、実際の観測と同様に地球上の大半の場所でエアロゾルの増加に伴い雲が減少することを再現することができた。これはもう1つの仮説として従来から指摘されていた「エアロゾルの増加によって雲の蒸発が促進され、その結果、雲が減少する場合がある」という現象の裏づけとなる。

 

 研究グループは今後、高性能なスーパーコンピュータを最大限駆使して長期間の計算を行うことで、エアロゾルと雲の関係を忠実に再現し、気候変動予測の質の向上を目指すとしている。

 

 

エアロゾル・雲相互作用の指標の大きさの分布

(C) 理化学研究所、JAXA、国立環境研究所、東京大学、九州大学、名古屋大学

衛星観測、本研究の高解像度シミュレーション、従来の低解像度シミュレーションによって計算されたエアロゾル濃度の変化に伴う雲の量の変化。赤色(正の値)はエアロゾルの増加に伴って雲が増加する領域を示し、青色(負の値)はエアロゾルが増加すると雲が減少する領域を示す。観測は全球的に負を示しており、エアロゾルが増えたときに雲が減る領域が多いが、従来の低解像度シミュレーションでは、ほとんどの領域で正を示しており、エアロゾルが増えると雲が増えていることを示している。一方、今回の高解像度シミュレーションでは、観測と同様に全球的に負を示しており、エアロゾルが増えたときに雲が減る領域が多いことが分かる。