4月15日

 

 早稲田大学、東京大学らの研究チームは12日、南鳥島周辺海域レアアース泥の資源分布の可視化とそれに基づく資源量の把握により、南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)において世界需要の数百年分に相当する莫大なレアアース資源が存在することを明らかにしたと発表した。またレアアース濃集鉱物を選択的に回収する技術の確立にも成功し、中国陸上レアアース鉱床の20倍程度まで品位を向上させることが可能になったとしている。

 

 レアアース元素(*注1)は再生可能エネルギー技術やエレクトロニクス、医療技術分野など、日本が技術的優位性を有する最先端産業に必須の金属材料であるが、レアアースの世界生産量は中国の寡占状態にあり、その供給構造の脆弱性が問題となっている。そして新興国を中心に今後もレアアースの需要が伸び続けることが予測されているため、レアアース資源の安定的な確保は必要不可欠である。

 

 2011年にはレアアースを高濃度で含有する海底堆積物(レアアース泥)が太平洋の広域に分布することが判明していた。さらに2013年には、南鳥島周辺の日本の排他的経済水域内で、総レアアース濃度(∑REY)が7,000 ppmに達する超高濃度レアアース泥の存在が確認され、新規レアアース資源として大きな注目を集めていた。超高濃度レアアース泥はレアアースを高濃度で含有する生物源のリン酸カルシウム(Biogenic Calcium Phosphate, BCP)(*注2)を多く含み、これがレアアース濃集の鍵であることも明らかにされていた。したがってレアアース資源の安定的な確保に向けて、日本の排他的経済水域内(EEZ)におけるレアアース泥の分布およびレアアース資源量の正確な把握が望まれていた。

 

 本研究チームは、2013年から2015年にかけてJAMSTECの研究船(みらい、かいれい)により、南鳥島EEZ内の詳細な調査を実施(図1)。南鳥島の南方沖約250 kmの超高濃度レアアース泥分布域における深海堆積物中のレアアース濃度分布を可視化するとともに、資源量の把握を行った。その結果南鳥島北西に位置する一角に極めてレアアース濃度の高い海域が存在することを確認し、このエリア(約105 平方キロメートル)だけでも、レアアース資源量は約120万トン(酸化物換算)に達し、最先端産業の中で特に重要なジスプロシウム、テルビウム、ユウロピウム、イットリウムは現在の世界消費の57年分、32年分、47年分、62年分に相当することがわかった。また、有望エリアの全海域(約2,500 平方キロメートル)を合算すると、その資源量は1,600万トンを超え、当該エリアが莫大なレアアース資源ポテンシャルを持つことが明らかになった。

 

 さらに、本研究チームは、レアアースの大半が含まれる生物源のリン酸カルシウムが、レアアース泥中の他の構成鉱物に対して大きな粒径を持つことに着目し、ハイドロサイクロン(分級装置の一種であり、液体中に懸濁する固体粒子を、遠心力を利用して沈降分離する機器)の粒径分離によってレアアース泥中の総レアアース濃度を最大で2.6倍にまで高めることに成功した。粒径分離によって泥の重量が大幅に減少するため、海上への揚泥や製錬のコストの削減も期待されるとしている。

 

*注1 レアアース(希土類)元素は、原子番号57番~71番までのランタノイド15元素に、原子番号21番のSc(スカンジウム)、39番Y(イットリウム)を加えた全17元素の総称。

 

*注2 生物の歯や骨を構成する物質であり、レアアースを非常に高い濃度(15,000 ppm以上)まで濃集している。レアアース泥中には魚類などの歯や骨片として多く含まれている。薄い塩酸や硫酸で容易に溶かすことができ、含まれているレアアースのほぼ全量を溶液中に回収することが可能。以下写真参照。

 

 

図1. 本研究で用いたコア試料の採取地点

( C ) 早稲田大学、東京大学、千葉工業大学、国立研究開発法人海洋研究開発機構、東亜建設工業株式会社、太平洋セメント株式会社、東京工業大学、神戸大学


左図点線は日本の排他的経済水域を示す。また、右図の白枠で囲まれた地域を有望海域として設定したエリア(アルファベットと数字の組合せにより、A1-D6に区分した)。