5月4日

 

 国立天文台は4月26日、アルマ望遠鏡による観測により124億光年離れた宇宙の一角に14個の銀河が高密度で密集した「原始銀河団」を発見したと発表した。またカナダ・ダルハウジー大学のスコット・チャップマン氏を中心とした国際研究チームが観測データを基にしたコンピューターシミュレーションを行った結果、これらの銀河団がこれから衝突・合体をするところであり、やがて巨大な銀河団の中心核になることを明示することに成功したと発表した。

 

 今回観測された原始銀河団はSPT2349-56と名付けられており、アメリカが運用する南極点望遠鏡(South Pole Telescope: SPT)の電波観測によって最初に発見されたものである。その後、ヨーロッパ各国がチリで運用する電波望遠鏡APEXでの追加観測によって、この天体が遠方宇宙に存在する銀河であることが確かめられた。そして今回のアルマ望遠鏡での観測によってこの天体が、14個の銀河で構成されていることがわかった。

 

 SPT2349-56は地球から124億光年の距離にあり、宇宙年齢である138億年と比較するとその差は14億年であり、まだ若い銀河団である。アルマ望遠鏡によって観測されたこの若い原始銀河団のデータを、国際研究チームがコンピュータシミュレーションの初期条件として使用したところ、銀河団が数十億年をかけてどのように成長・進化していくのかを調べることに成功した。その内容は、今回発見された銀河一つ一つは我々が住む天の川銀河の25%ほどの大きさであるが、天の川銀河の1000倍ものペースで星が作られているというものである。観測結果の分析を担当したカナダ・ダルハウジー大学のスコット・チャップマン氏は「アルマ望遠鏡の観測で、銀河団進化の道筋を予想するための出発点が初めて明快に示されたのです。これら14個の銀河はやがて星を作るのをやめ、ひとつの巨大銀河へと合体していくことでしょう」とコメントした。

 

 これまで研究者の間では、宇宙誕生から数百万年のうちに、物質やダークマター(暗黒物質)が重力によって引き合うことで次第に銀河団の基となる大きな構造が作られ、その後長い時間をかけて銀河団が作られると考えられていた。銀河団の質量は太陽1000兆個分にもなる非常に巨大なもので、1000個以上の銀河と膨大な量のダークマターの他、巨大ブラックホールや100万度以上の高温でエックス線を出す電離ガスなどが含まれる。今回アルマ望遠鏡で観測された原始銀河団は、理論研究やコンピューターシミュレーション研究で予言されていたとおりの質量をもっていたが、予想よりもずっと早い時期に誕生したことがわかった。

 

 これについて、国際研究チームの一人であるイェール大学のティム・ミラー氏は「この原始銀河団がどうしてこんなに早くこんなに巨大に成長できたのかは謎です。天文学者は、10億年以上かけて小さい天体がゆっくり集まっていくと考えていたからです。今回の発見は、巨大銀河団とそこに含まれる大きな銀河がどのようにして誕生したのかを探るための絶好の機会を与えてくれたといえるでしょう」とコメントし、原始銀河団形成シナリオを考えていく上での問題点を示した。

 

 

(C) ESO/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Miller et al

南極点望遠鏡SPT、APEX望遠鏡、アルマ望遠鏡で観測された原始銀河団SPT2349-56。口径10mのSPT、12mのAPEX望遠鏡では点にしか見えなかった天体が、アルマ望遠鏡では14個の銀河の密集した姿であることがわかった。

 

 

(C) ESO/M. Kornmesser

アルマ望遠鏡での観測結果をもとに描かれた原始銀河団SPT2349-56の想像図。多くの銀河が密集し、これから銀河同士が衝突・合体していく様子を描いている。