6月5日

 

 東邦大学理学部の山口耕生准教授らを中心とする共同研究チームは5月31日、約6600万年前の白亜紀末における天体衝突において恐竜を含む生物(当時の約76%)が大絶滅したにも関わらず、天体衝突によってできたクレーター内において、天体衝突後2~3年以内の短期間で生物が復活し、少なくとも3万年以内には生態系が繁栄していたことを発見したと発表した。この研究成果は、地球の歴史の中で幾度も生じた生物の大量絶滅の後の海洋生態系の復活を示唆するものだとしている。

 

 約6600 万年前の白亜紀末、直径約10km の小天体がメキシコ・ユカタン半島の北部沖に衝突し、衝撃波・爆風・大津波・気候変動が様々な時間スケールで起き、環境が大激変して恐竜を含む生物(当時の約76%)が大絶滅した。その後は古第三紀となり、新たな生物相が繁栄するようになった。先行研究によると、天体衝突後の生態系の復活、特に一次生産(*注1)の復活は、同時期ではなく地域によって差があったとされている。例えば、衝突地に近い場所において、一次生産が天体衝突前の白亜紀後期のレベルに復活したのは他の地域より遅く、衝突後約30 万年もかかったと考えられてきていた。衝突地に近い場所ほど生態系の復活が遅かった理由として、直径約200km の巨大衝突クレーターが形成された際の熱で生じた、大規模な熱水活動(*注2)による基盤岩(大陸地殻)からの重金属等の毒性元素の溶脱および海洋中への大量放出が挙げられていたが、最大の要因は天体衝突だとされてきた。

 

 このような研究背景のもと、衝突時に形成された直径約200km のクレーター内部の生命圏の復活シナリオを描くため、国際深海科学掘削計画(IODP)の第364次研究航海による掘削が2016 年にメキシコ・ユカタン半島の北部沖において行われ、全長800m の柱状試料が採取された。共同研究チームはこの柱状資料のうち、白亜紀からの移行期を含む約1m 長の堆積岩に焦点をあてて、微化石(*注3)・生痕化石(*注4)・化学分析を組み合わせた詳細な研究を行った。その結果クレーター内では衝突後2~3年以内という想定外の極短期間で生物が復活し、少なくとも3万年以内には生態系が繁栄していたことを突き止めた。

 

 共同研究チームは研究成果から以下のような結論を出した。この研究成果から、天体衝突は生物の大量絶滅を引き起こしはしたが、その復活を長期間にわたり妨げるものではなかった。生態系復活の速度に最も影響を与えたのは、全球規模の環境の復活ではなく、海洋循環や食物連鎖や(生態学的な)生息場所があったかといった局所的(ローカル)な要素だったかもしれない。また、天体衝突後の生態系は、衝突前と比べるとかなり違っていた。大量絶滅を生き延びたわずかな生物種は、衝突後の海洋という新しい環境により良く適応するように進化していった、と推察される。

 

*注1 海洋表層での光合成による有機物の生成

 

*注2 海水がマグマ等の熱源(本稿では天体衝突)により熱せられて、地中で高温高圧の液体となり、周囲の岩石と化学反応や溶解反応を起こし、重金属や硫化水素を含む液体が海底に噴出されること。温度は高圧下で350℃に達する場合がある。一般的に中央海嶺のような発散型プレート境界や、沖縄トラフのような収束型プレート境界で起きる。金属鉱床を形成する場合もある。

 

*注3 ミリ~ミクロンサイズの微小な生物化石。単細胞の真核生物である有孔虫・放散虫・珪藻・円石藻等が化石化したもの。それらを含む岩石の形成年代を推定する(地質年代を決める)ための「示準化石」として、形成環境(生息環境)を推定するための「示相化石」として用いられる。

 

*注4 生物そのものの化石ではなく、生物が活動した痕跡の化石。底生生物が、海底面や湖底を這いずりまわった痕が代表的。摂食の跡や糞等も生痕化石である。