6月30日

 

 国立天文台、千葉工業大学、北海道大学を中心とする国際研究チームは29日、2016年秋に北海道名寄市に設置した北海道大学1.6メートルピリカ望遠鏡による小惑星フェートンの偏光観測を行った結果、フェートンが反射した光が強い偏光を示し、これまでに知られている太陽系小天体の中で最大の偏光度を示したと発表した。この観測結果はフェートンの表面にあるレゴリス(天体表面の砂粒)サイズが大きい、もしくはレゴリス間の空隙率が大きいことを示唆している。

 

 小惑星フェートンは、彗星に似た特異な軌道を持つ小惑星で、地球に近づくこともある。ふたご座流星群のもととなる、ちりを供給した天体と推定されていること、また太陽に近づく時期には少量の物質を放出していることなどから、フェートンは彗星に近い性質を持つ「活動的小惑星」として知られている。このような彗星と小惑星の両方の性質を持つ天体の表面状態は未だに謎が多い。

 

 太陽系天体の表面について知るには、偏光観測が有効である。光は伝わる方向とは垂直に電場や磁場の強度が変動する波である。電場強度が変動する方向は太陽の光ではランダムであるが、天体表面で反射した光では特定の方向で強く、別の方向では弱いという偏光を起こすことがある。偏光度を観測することで天体表面の情報が得られる。特に太陽、天体、観測者のなす角度(太陽位相角)によって、偏光度がどのように変化するかが重要であるとされている。

 

 今回の観測結果は、フェートン表面にあるレゴリスの直径が大きいことを示唆している。過去のレゴリス試料を用いた室内実験から、レゴリスの粒径が大きいほど偏光度が大きくなることが知られている。国際研究チームは、室内での実験と今回の観測値を照らし合わせることで、フェートンの表面物質の粒の直径は360マイクロメートル以上と推定した。この値は、月表面から持ち帰られた粒の直径(<50マイクロメートル)と比べて大きい。粒の直径が大きい要因として、フェートンが太陽のごく近くを定期的に通過し、太陽からの熱や光の影響を強く受けて、天体表面の粒が焼き固められたことを挙げている。

 

 また偏光度が大きい原因として、フェートンのレゴリス粒子間の空隙率が高いことも考えられるとしている。

 

 フェートンは、JAXAと千葉工業大学が共同で進めている宇宙機探査計画「デスティニー・プラス」(DESTINY+、2022年打ち上げ予定)の探査対象天体であり、この興味深い天体の理解が深まることが期待されると今後の期待を述べた。

 

 

( C ) Ito et al. Nature Communications (2018)

フェートンを含む様々な天体の直線偏光度を太陽位相角の関数として表示したもの。青い線が今回の観測から得られた結果である。参考までに、太陽系天体の中でも大きな偏光度を持つ天体の幾つかをその時の観測波長と共に描き入れている。水星、近地球小惑星(1566) Icarus、火星の衛星Deimos とPhobos、小惑星 (2100) Ra-Shalom、Encke彗星 (2P)、それにLINEAR 彗星 (209P)。