2月27日

 

 

 石川遼子助教(国立天文台)とJavier Trujillo Bueno教授(カナリア天体物理学研究所)を中心とした国際研究チームは22日、ロケット実験CLASP2と「ひので」衛星による観測を組み合わせ、太陽表面からコロナ直下に至る磁場構造を世界で初めて明らかにしたと発表した。太陽表面に点在して見られる磁束管が、彩層で急激に膨張し互いにひしめき合っていくという、今まで想像のみであった太陽磁場の彩層での姿が明らかになった(図1)。本研究成果は太陽物理への新しい知見をもたらすとともに、太陽観測研究における彩層磁場の測定に有効性があることを示した。

 

 太陽大気は表面(6千度)よりも、その上層にある彩層(1万度)、さらにその上層に広がるコロナ(100万度)の方が温度がはるかに高く、いかなる仕組みでこのように高温な大気層が作られているのかよくわかっていなかった。また彩層はコロナに比べて密度が高く、コロナを加熱・維持するよりも多くのエネルギーが必要であることが知られている。これを「彩層・コロナ加熱問題」と呼び、観測と理論の両面からさまざまな研究が活発に行われ、太陽表面とコロナの間に位置する「彩層」が重要な役割を果たしていると考えられていた。しかし、加熱に必要な大気の運動やエネルギー輸送の担い手である「磁場」の彩層での様子はこれまでほとんど明らかになっておらず、その理解を阻む大きな障壁となっていた。

 

 太陽彩層における磁場の様子を捉えるべく、国立天文台をはじめとした日米欧研究チームは、近年の理論研究により磁場測定が可能であることが示唆された「紫外線の偏光」に着目した。紫外線は宇宙からの観測が必須となること、またその偏光を精度良く測る観測装置の開発も極めて困難であることから、「紫外線の偏光」は長らく未踏の領域となっていた。これに挑戦したのが、観測ロケット実験 CLASP(2015年打ち上げ)、そしてCLASP2(2019年打ち上げ)である。CLASP2はその飛翔中、活動領域を2分半にわたって観測し、電離マグネシウム線(波長280 nm)近辺の紫外線偏光スペクトルを世界で初めて取得した(図2)。さらにCLASP2は、太陽表面の磁場を測定する「ひので」衛星との共同観測にも成功した(図2左下)。

 

 研究チームがこれらの偏光情報を基にして、太陽磁場を解析した結果、太陽表面から彩層底部、彩層中部、そしてコロナ直下の彩層上部に至る活動領域の磁場の様子を示すことに成功した。(図3)。図3の緑線で示された、大きく変動した空間分布は、太陽表面ではキュッとすぼまったチューブ状の「磁束管」が、互いに少しずつ離れて分布していることを示している。一方の彩層では(図3の青、黒、赤の丸)その振る舞いは大きく異なり、(1) 太陽表面に比べて急激に磁場強度が弱まること、(2)彩層の中でも上空に行くに従って徐々に磁場が弱くなっていること、(3)太陽表面で磁場が弱い場所でも彩層では比較的強い磁場が存在すること(例えば図3の黒矢印で示した場所)がわかった。これらのことから、磁束管が彩層で急激に膨張し互いにひしめき合っていくという、これまで太陽研究者が想像するも、その証拠が得られなかった彩層磁場の様子が初めて観測から明らかになった(図1)。

 

 さらに研究チームは、電離マグネシウム線の強度スペクトルから彩層上部のエネルギー密度(電子密度と温度の積)を求めたところ、彩層上部の磁場(図3の赤丸)と非常に高い相関があることがわかった。これは、彩層加熱が磁場起因であること、さらにはその加熱機構に迫る上で太陽表面の磁場情報では不十分であり、彩層上部での磁場測定が必須であることを明瞭に示したとしている。

 

 今後CLASP2で明らかになった太陽表面からコロナへ連なる磁束管の姿を元に、磁場がどのようにして太陽大気層を結合させているのか、異なる大気層間でどのようにエネルギーが伝達されていくのか、といった研究が進んでいくと期待されるとしている。また日本が中心となって欧米と開発を進めている次期太陽観測衛星Solar-C (EUVST)は、 波長17nmから120nmに存在する彩層~コロナの温度を起源とする様々なスペクトル線を高分解能に観測する予定であるため、これが実現すれば、エネルギーが輸送され加熱が起きる現場を初めて詳細に捉えることができるとしている。

 

 

図1 ( C ) 国立天文台

観測ロケット実験CLASP2と「ひので」衛星の共同観測から明らかになった、太陽表面から彩層最上部に至る磁束管の様子。4つの高さ(太陽表面、彩層低・中・最上部)で磁場を観測した。

 

 

図2 ( C ) 国立天文台, IAC, NASA/MSFC, IAS

本研究で用いた観測データ。CLASP2は緑実線で示されたスリットの位置での偏光スペクトル(右側の上下のパネル)を得た。スリットを当てていた位置とその周辺の太陽彩層の様子は、CLASP2に同じく搭載された撮像カメラ(SJ)で示されている(左上のパネル)。太陽表面磁場の詳細は、ひので衛星に搭載された可視光望遠鏡から得られた(左下のパネル)。白黒がN極, S極で磁場の強いところを表している。背景は、SDO衛星で観測された太陽彩層の全面像。

 

 

図3 ( C ) 国立天文台, IAC, NASA/MSFC, IAS

太陽表面からコロナ直下に至る磁場分布。CLASP2のスリット(図2の緑線)に沿った各高さでの磁場強度を示す。