銀河中心分子雲帯で2本の渦巻腕からなる降着円盤を持った赤ちゃん星を発見

6月25日

 

 

 中国科学院上海天文台のシン・ルー氏を中心とする国際研究チームは17日、アルマ望遠鏡を用いた観測により、銀河系中心部にある「銀河中心分子雲帯(*注1)」と呼ばれる場所のいて座C分子雲(Sagittarius C cloud)において、太陽の32倍の質量をもつ赤ちゃん星(原始星)を取り巻く降着円盤を発見することに成功したと発表した(図1)。赤ちゃん星はO型原始星(*注2)に分類され、これほど巨大な原始星の周りに降着円盤が観測された例は珍しいことであるとしている。さらにこの降着円盤には、2本の渦巻き腕があることが判明した。この渦巻き腕は、1万年以上前に別の天体が接近・通過することによって起こる降着円盤内の密度振動によって形成されたと研究チームは推測している。今回の発見はこれまでよくわかっていなかった重い星の形成に、軽い星と同様な降着円盤を介した成長過程が関係している可能性を示すものであるとしている。

 

 太陽のような軽い星では、星の材料となる分子ガスの塊の中に円盤が形成され、その円盤を通して周囲のガスが中心へと降り積もり形成されることが知られている。赤ちゃん星(原始星)を取り巻く降着円盤は「原始星円盤」とも呼ばれ、星のゆりかごのような存在である。一方で太陽質量を大きく超える重い星(大質量星)、特に進化が速いO型原始星の形成については、軽い星と同じ過程なのか、あるいは、別の過程を経て形成されるのかはまだよくわかっていない。

 

 地球から約26,000光年の距離にある銀河系中心部には、水素分子を中心とした高密度な分子ガスが大量に分布している「銀河中心分子雲帯」と呼ばれる領域がある。この領域は、従来の研究では高温ガスや磁場が外圧として働いているため、星の誕生には適さない環境であると考えられていたが、近年の観測により原始星の存在が確認され、星の形成領域としても注目されている。しかし銀河系中心部は、星の形成過程を調べる対象としては地球から遠い位置にあることに加えて、銀河中心と地球の間に分布する星間物質が邪魔をしてしまい、星が形成される様子を詳細に調査することが困難であった。

 

 今回研究チームは、アルマ望遠鏡の長基線観測を用いて、40ミリ秒角の解像度で銀河中心分子雲帯の一部を観測した。この解像度を持ってすれば、東京から大阪にある野球ボールを簡単に見つけることができるとしている。観測の結果、銀河系中心部に太陽の32倍の質量を持つO型原始星を取り巻く降着円盤を発見することに成功した。その直径は、約4 ,000 au(天文単位auは地球と太陽の間の平均距離)に達する。研究チームメンバーのチジョ・チャン氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)は「これは、降着円盤を持つことがわかっている最も重い原始星のひとつであり、銀河系中心部にある原始星円盤を電波で直接撮像した初めての例です。」とコメントしている。さらに降着円盤に2本の渦巻き腕があることもわかった。原始星円盤で渦巻き腕が検出されるのは珍しいことである。降着円盤から約8,000 au離れた場所に、太陽質量の3倍程度の天体があることから、この天体が降着円盤の渦巻構造を作り出したのではないかと研究チームは推測した。実際に数値シミュレーションを行った結果、1万年以上前にこの天体が降着円盤に接近・通過することで、降着円盤を乱し渦巻き腕が形成されることを見出した。

 

 今回の発見により、これまでよくわかっていなかった重たい星の形成にも、降着円盤の存在が関係している可能性が示された。「星の質量が違っても、その形成過程は同じである可能性があります。アルマ望遠鏡によるさらなる高解像度観測によって、大質量星の形成の謎が解明されることが期待されます。」と、シン・ルー氏は今後の展望についてコメントしている。

 

*注1 天の川銀河中心付近にある分子ガス雲の複合体。英語の頭文字からCMZ(しーえむぜっと)と呼ぶことも多い。銀河面に沿って、中心から半径200~300パーセク(200~300 pc=1000光年)程度の範囲に数十pcの厚さで円盤状に広がっており、ガスの総質量は10の8乗太陽質量。この領域にある分子雲は円盤部にある分子雲に比べて、密度で1桁程度、温度で数倍から1桁程度は高い。速度分散も数倍は大きく、外圧も考えないとビリアル平衡にはない。高温ガスや磁場が外圧として働いていると推定されている。

 

*注2 ハーバード分類で表面温度の系列に属する最も高温の星。表面温度は~45,000K以上。質量は太陽の約25~120倍。主な吸収線は電離ヘリウム線(HeII)、高電離の炭素(CIII)、窒素(NII)、酸素(OIII)、ケイ素(SiIV)の線。

 

 

図1 ( C ) Lu et al.

赤ちゃん星を取り巻く降着円盤と接近・通過した天体の時間変化を追った数値シミュレーション画像(a-c)。左下から、接近時、それから4,000年後、8,000年後の様子。通過後、降着円盤に渦巻き腕が見られる。アルマ望遠鏡によって観測された渦巻き腕をもつ降着円盤とその周りにある2つの天体の電波画像(d)。天体同士が最も接近した時から約12,000年が経過していると推測される。