9月23日
図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, G. Villanueva (NASA/GSFC), S. Trumbo (Cornell Univ.), A. Pagan (STScI).
ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)が捉えた木星衛星・エウロパの写真(左)とNIRSpecで捉えられたエウロパの合成画像。左の写真において真ん中から右側にかけて白く写る部分はタラ地域と呼ばれる。左側の白い部分はポーイス地域と呼ばれる。NIRSpecが捉えた画像の1枚目と2枚目では二酸化炭素が放出された場所が柱としてくっきりと見えるが、3枚目の写真ではぼやけているように見える。
コーネル大学(アメリカ)のSamantha Trumbo氏とNASA(ゴダード宇宙飛行センター)のGeronimo Villanueva氏を中心とする研究チームは21日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)のNIRCam(近赤外線カメラ)で捉えられた木星衛星・エウロパの観測データを解析した結果、エウロパ特有の氷表面に二酸化炭素があることを発見したと発表した。また二酸化炭素は彗星などの外部からもたらされたものではなく、エウロパの地下に存在する海から放出されたものであることがわかった。二酸化炭素は生物生存に不可欠な物質であり、今回の発見はエウロパに生物生存可能性があることを示唆するものであるとしている。
エウロパは木星衛星の一つであり、表面は氷で覆われているが、その地下には海床とともに塩を含んだ液体の海が存在することがわかっていた。しかしこの液体の海に生物が生存するのに必要な物質、特に炭素化合物があるかどうかは確認されていなかった。
今回研究チームはJWSTに搭載されたNIRCamによるエウロパの観測データを解析した結果、表面において二酸化炭素を発見した。特にタラ地域(図1一番左の写真の中央から右側にかけて白く表された部分)と呼ばれる場所に多く存在することが示された。タラ地域は“カオス地形”とも呼ばれており、表面の氷が何らかの力でくだかれ、地下の海と化学物質の交換が行われている場所である。つまりこの二酸化炭素は地下の海から生じたものである確率が高いとしている。さらに二酸化炭素はエウロパ表面の環境では不安定であり、すぐになくなることから、これらの発見された二酸化炭素が最近蓄積されたものであることも判明した。これらの観測結果から、エウロパに生物生存可能性があることが示唆されるとしている。Villanueva氏は「地球上では生物が生存するために多種多様な炭素化合物が必要である。エウロパの海の化学物質を理解することが、そこが生命が住むのに適した環境なのかを決めることに役立つ」とコメントしている。またVillanueva氏は「科学者たちは、エウロパの海が表面の氷とつながっている部分がどれだけ存在するのか注目している。このことを解明することでエウロパの海の化学物質の基本的なことを理解することが可能だ」とコメントしている。
今回の観測データの解析ではさらに、エウロパの表面に地下から噴出する水柱があるかどうかの確認も行われた。すでにハッブル宇宙望遠鏡が2013、2016、2017年にその存在可能性があることを示していたが、今回の観測では、化学物質の放出度からその可能性について探ることとした。その結果、水柱があることを否定することはできないとするにとどまった。
木星衛星に関する観測は4/14に打ち上げられたESAの木星衛星探査機・Juiceによっても今後行われる予定である。Juiceは木星とともにガニメデ、カリスト、エウロパの3つの衛星に関する詳細な観測を行う予定であり、エウロパの生物生存可能性についての新たな観測結果がもたらされることが期待されている。