HSTとJWSTにより鮮明に写し出された突発天体を含む衝突銀河団の姿

11月11日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI, J. Diego (Instituto de Física de Cantabria, Spain), J. D’Silva (U. Western Australia), A. Koekemoer (STScI), J. Summers & R. Windhorst (ASU), and H. Yan (U. Missouri).

HSTとJWSTが捉えた衝突銀河団MACS0416の姿(可視光と赤外線観測の合成写真)。

 

 

図2 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI, J. Diego (Instituto de Física de Cantabria, Spain), J. D’Silva (U. Western Australia), A. Koekemoer (STScI), J. Summers & R. Windhorst (ASU), and H. Yan (U. Missouri).

衝突銀河団MACS0416の中にあるひときわ目立つ突発天体の様子(写真中央左側にあり、右下に拡大写真を表示)。ビッグバン発生後30億年たったあとの星の様子を示しており、いくつかの星を含むピンク色の線が弧状に伸びている。これは重力レンズ効果によるものである。特にピンク色の線の真ん中には4000倍に増光された一つの星が存在し、日本の怪獣アニメにちなんで「モスラ」というニックネームがつけられた。

 

 ESAは9日、ハッブル宇宙望遠鏡(以下HST)の可視光観測とジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の赤外線観測によって捉えられた衝突銀河団MACS0416の画像を公開した(図1:合成画像)。黄色や赤、青などに光る様々な銀河団が写し出されており、この中には14個の突発天体も写っている。真ん中に数十個もの黄色く光る渦巻銀河や楕円銀河が写っており、銀河団前面に弧状に配列されている。このうちのいくつかの銀河は、重力レンズ効果によって像が歪められている。青く光る銀河は我々に向かって近くにあり、赤く光る銀河は遠くにある銀河である。多量の塵が含まれるとはっきりとした赤色の銀河として写し出される。

 

 衝突銀河団MACS0416は地球からおよそ43億光年離れた場所に位置しており、2014年に始まったHSTのFrontier Fieldsと呼ばれるプログラムによって初めて発見された。43億年というと、太陽系天体ができてから間もない時期であり、遠い宇宙に存在する天体であるため、天文学者から研究対象として大きな注目を集め、今回JWSTによる追観測が行われることとなった。

 

 MACS0416は2つの銀河が衝突段階にある銀河団であり、将来的に一つの大きなまとまった銀河団になると考えられている。またこの衝突銀河団には超新星などの突発天体が存在し、重力レンズ効果によって像が歪められたり、増光されるなどの影響を受けている。突発天体とは一時的に光量が変化する天体のことであり、超新星が代表的な天体としてあげられる。

 

 今回の観測は、衝突銀河MACS0416とその中に含まれる突発天体の詳細を明らかにすることを目的として行われた。図1において青く光る銀河団は我々に向かって近い方向にあることを意味しており、ここではたくさんの星形成が行われている。この青く光る銀河団はHSTの観測によって明確に写る。そして赤く光る銀河団はJWSTによって鮮明に写し出され、我々より遠くの位置にあることを示している。いくつかの銀河のうち、鮮明に赤く写る銀河が存在するが、これは多量の塵を含んでいることを示している。さらに今回の観測によって14個もの突発天体が特定された。そのうちの12個は一つで存在する星、もしくは連星系を成しているものであり、重力レンズ効果によって強く増光されたものであるとしている。残りの2個の突発天体は超新星であるとしている。

 

 今回特定された突発天体の中でひときわ目立つものが一つある。それは図2右下に拡大表示されたものであり、ピンク色の線が弧状に伸びており、その中にいくつかの星が並んでいる。このピンク色の線は、ビッグバンが始まってからおよそ30億年程度たった後の天体の様子を示している。ピンク色の線の真ん中に存在する星は、重力レンズ効果によっておよそ4000倍に増光されることから、日本のアニメにちなんで「モスラ」というニックネームが付けられた。この天体は2014年のHSTによる観測でも鮮明に観測された。「モスラ」が写し出されるためには、前面にある銀河団と背景にある星の間にある「モスラ」が、重力レンズ効果によって強く増光される必要があるが、通常であればこの銀河団と背景にある星の相互作用によって、「モスラ」を含むピンク色の弧状の線の光が打ち消されると考えられている。それにも関わらず光が残っていられるのは、図2に写っていない別の天体の存在があると研究者は指摘する。その別の天体は「モスラ」の前面にある銀河団の中に太陽質量の10000から100万倍の質量を持つ天体であり、この天体が「モスラ」をさらに増光している可能性があるとしている。この天体にぴったりの天体は球状星団である。球状星団はJWSTによる観測にとっては、かすかな光しか出さない天体であり、今回の観測によって写し出されていないことと合致する。

 

 今回の観測は短い期間で行われたものであるため、他にももっと多くの突発天体が多く発見されることが期待されるとしている。

 

 

図3 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI.

衝突銀河団MACS0416の写真。左側がHSTによる可視光観測画像であり、右側がJWSTによる赤外線観測画像。JWSTではかすかな光しか出さない銀河や、塵を多く含む銀河の様子を正確に捉えている。