JWSTが自由に動く3つの小さな褐色矮星を発見

12月16日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI, and K. Luhman (Penn State University) and C. Alves de Oliveira (ESA).

地球からおよそ1000光年離れた場所にあるペルセウス座星形成領域の中にある星団・IC 348の中心部をJWSTが捉えたもの。ピンク紫色のカーテンが覆っているが、これは星間物質が星の光を反射したものであり、reflection nebulaと呼ばれる。多環芳香族炭化水素(PAHs)があることが今回発見された。中心にある2つの星はB型星の連星系であり、星団中のほとんどの星が巨大星である。これらの星から吹き出す恒星風により、写真右側のループが作られている。

 

 

図2 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI, and K. Luhman (Penn State University) and C. Alves de Oliveira (ESA).

IC 348中に見つかった3つの褐色矮星。1番目はピンクがかった白色の星のペアになっている。2、3番目はピンク色をした星である。

 

 Kevin Luhman氏(ペンシルベニア州立大学)を中心とする研究グループは13日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線観測装置・NIRCamにより、ペルセウス座星形成領域に存在する星団・IC 348を観測した結果、自由に動き回る3つの小さな褐色矮星を発見することに成功したと発表した(図2)。このうち最も小さいものでは木星質量のおよそ3~4倍であり、星の質量としては極めて小さい。今回の発見は、星形成理論や同程度の質量を持つ太陽系外惑星の形成理論を確立する上で重要な発見であるとしている。

 

 褐色矮星は通常の星と同様、その誕生プロセスにおいて水素ガスが自己重力によってつぶれていくが、核融合反応を起こすまでの十分な質量がないがために、通常の光り輝く星になれなかったものである。十分な質量がなければ、水素ガスの中心密度が低く、核融合反応を起こすことができない。褐色矮星の中で最も小さい分類に入るものは、木星の数倍程度の質量である。いわば星と惑星の間くらいの質量の大きさの天体である。

 

 今回研究チームは最も小さい褐色矮星を見つけるべく、地球からおよそ1000光年離れた場所にあるペルセウス座星形成領域に存在する星団・IC 348(図1)をJWSTのNIRCam(近赤外線観測装置)によって観測することとした。IC 348は若い星団であり、その年齢はおよそ500万年である。それゆえその中に存在する褐色矮星は星の形成過程において近赤外線を比較的放出することから、JWSTにより十分な観測が行えると研究チームは判断した。

 

 観測の結果、小さな浮遊性のある褐色矮星を3つ発見することに成功した(図2)。これらの褐色矮星は木星質量の3倍から8倍程度の質量を持ち、表面温度が830℃~1500℃程度であることがわかった。この3つの褐色矮星のうち最も小さな褐色矮星は木星質量のおよそ3~4倍程度であるとしている。さらにNASAのカッシーニによって土星とその衛星であるタイタンで発見されたものと同じ炭化水素化合物が検出されたとしている。この炭化水素化合物は星間物質の中でも発見され、太陽系外において発見されたのは今回が初めてであるとしている。NIRCamは非常に精度が高いために、地球上にある宇宙望遠鏡と比べて、わずかな光しか出さない天体の光も捉えることが可能である。またIC 348の中にある褐色矮星と背景銀河をしっかりと区別することが可能である。

 

 どのようにしてこのような質量の小さな褐色矮星ができたかは多くの疑問が残されている。ESAのCatarina Alves de Oliveira氏は「原始星円盤において巨大惑星ができる可能性は大いにあるが、星団の中において小さな褐色矮星が作られるのは困難であり、ましてや太陽質量のおよそ1/300ほどの小さな星ができることは考えにくい。そこでまわりの環境がどうこうというより、このような小さい質量からどのようにして星が形成されるかを考える必要がある」とコメントしている。またこの星が本当に褐色矮星なのか、他の惑星系からはぐれてきた惑星なのかの疑問も残されている。しかし研究チームは今回発見された3つの天体が褐色矮星である可能性が高いと結論付けた。それは今回発見された褐色矮星候補の質量と同じ質量の惑星ができるのは非常にまれであること、また一般的な惑星系にある主星が小さな質量であることが一般的であり、そこから巨大惑星が誕生することは極めてまれであることが理由であるとしている。

 

 今回の発見は星形成過程の理論確立に向けて重要なものであるとしている。また太陽系外惑星の形成理論についても大きな影響を与えるとしている。それは最も小さな褐色矮星は、最も大きな太陽系外惑星と同じくらいの大きさであり、いくつかの共通の性質を持つと考えられているからである。今回発見されたような褐色矮星は浮遊性を持つことから、主星の光によって隠されてしまう太陽系外惑星よりも研究に適していると考えられる。

 

 今後研究チームはさらに小さく、かすかな光しか出さない褐色矮星の調査を行う予定である。そして木星質量の2倍の質量を持つ褐色矮星、その先には木星質量と同程度の質量の褐色矮星の発見を目指すとしている。