太陽系外惑星・55 Cancri eが大気を持つ証拠を得ることに成功

5月11日

 

 

 

イラスト ( C ) NASA, ESA, CSA, R. Crawford (STScI).

太陽系外惑星55 Cancri e(右)と主星・55 Cancriのイメージ図。

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, J. Olmsted (STScI), R. Hu (JPL), A. Bello-Arufe (JPL), M. Zhang (University of Chicago), M. Zilinskas (SRON Netherlands Institute for Space Research).

JWSTによって得られた55 Cancri eの赤外線量のスペクトル分布。Secondary eclipseと呼ばれる方法が用いられた。

 

 Renyu Hu(NASAのジェット推進研究所・カリフォルニア州)氏を中心とする国際研究チームは8日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)を用いた赤外線観測により、太陽系外惑星・55 Cancri eを観測した結果、地球と同じように酸素や窒素などを含む大気が存在する明確な証拠を得ることに成功したと発表した。20年以上も前にこの惑星は発見されていたが、今回初めてどのような大気が存在するか明確な証拠を得た。この惑星の内部に存在するマグマから恒常的に酸素や窒素などが湧き出て大気を作っていると考えられ、太陽系にある岩石型惑星がどのようにして大気の状態を保っているかを研究する上で重要な研究材料になるとしている。

 

 55 Cancri eは、かに座方向約41光年先に存在する太陽に似た星のまわりを周回する5個の惑星のうちの一つである。地球の直径のおよそ2倍あり、密度は地球より少し高く、スーパーアース(*注1)と呼ばれる惑星に分類される。地球より大きさは大きいものの、海王星よりはサイズが小さい。またこの惑星は、太陽系における岩石型惑星と同じような化学組成をしている。しかしながら、この惑星は主星からの距離が、水星-太陽間の距離のおよそ1/25であり、わずか225万kmしか離れていないため、惑星表面はマグマの海のように、どろどろに溶けている。また主星からの距離が非常に近いため18時間以内に主星を公転する。惑星は常に同じ面を主星に向けながら周回しており、光が当たっていない面は常に暗い状態になっている。

 

 55 Cancri eは表面温度がとても高いため、生物生存可能性はないとされている。2011年にトランジット法(惑星が主星の前を通過した際の減光を捉えることによって、惑星の存在を確認する方法)によって発見された。その後多くの観測が行われてきたが、JWSTが現れるまではこの惑星が大気を持つかどうかや、主星からの恒星風を受けることによって高温の大気を持つかどうかなどの明確な証拠が得られていなかった。それはこの惑星の大気が薄く、密度が高いためである。それでもかつてスピッツアー宇宙望遠鏡の観測データを用いた研究により、55 Cancri eが地球に存在する酸素、窒素、二酸化炭素などを含む大気を持つ可能性があるとの予測が立てられていた。しかし、この惑星がとても熱いがために、シリコンや鉄、アルミ、カルシウムなどの鉄分が蒸発した気体からなる薄い大気で覆われている可能性を除外することができていなかった

 

 今回研究チームは55 Cancri eが大気を持つかどうか、またどのような大気からなるかを研究すべく、JWSTの近赤外線観測装置・NIRCamと中間赤外線観測装置・MIRIを用いて4~12マイクロメートルの波長帯の赤外線観測を実施した。その結果、図1のようなスペクトル図を描くことに成功した。このデータはModel B(地球に存在する酸素などからなる大気モデル)に近似していることが見て取れる。特にNIRCamデータは非常に良い一致を見せている。「4~5マイクロメートル付近で赤外線量が落ちているが、これは一酸化炭素や二酸化炭素が、この付近の波長の赤外線を吸収しているためである」と共同研究者であるAaron Bello-Arufe氏(同じくNASA・ジェット推進研究所)はコメントしている。このスペクトル図は、惑星が主星の前に存在するときの赤外線の強さから、惑星が主星の裏に隠れているときの赤外線の強さを引くことによって、惑星が主星からの光を受けている際の赤外線量を計測することによって得られている(Secondary eclipseと呼ばれる方法である)。さらに55 Cancri eの表面温度が1540℃であることも判明した。もしこの惑星表面が岩石の蒸発成分から構成されている場合、その表面温度は2200℃になると試算されており、観測された表面温度は低い。研究チームはこれについて、55 Cancri eが大気を持ち、デイサイド(恒星から光が当たり続ける面)からナイトサイド(光が当たらず常に暗い面)にエネルギーが流れているため、表面温度が低くなっていると推定している。

 

 また今回55 Cancri eが大気をもつことが判明したが、この大気は惑星形成過程において常に存在していたというよりも、惑星内部のマグマから湧き出たものである可能性が高いと研究チームは推定している。それは主星からの強い恒星風を常に受けているためである。惑星内部のマグマは水晶や岩石だけでなく、多くのガスを含んでおり、それが常に表面に湧き出ることによって、大気が常に存在する状態を保っているとしている。

 

 今回の観測によって、55 Cancri eの大気が内部のマグマのおかげで成り立っていることがわかり、非常に面白い知見がもたらされた。太陽系にある惑星はかつてマグマの海によって覆われていたと考えられているが、ここからどのようにして大気ができたかを研究する上で、とても重要な情報が得られたとしている。Renyu氏は「最終的に岩石型惑星がどのようにして大気を持ち続けられるのかを理解し、生物生存可能性のある惑星の理解につなげたい」とコメントしている。また研究チームは今後のJWSTの観測によって55 Cancri eのナイトサイドとデイサイドの温度の違いをマップ化し、惑星の気候変動や、大気の更なる特徴を得ることに努めていくとしている。

 

*注1 半径が2地球半径以下で1.25地球半径以上の小型の太陽系外惑星を指すことが多い。質量では、約10地球質量以下、約1地球質量以上に対応する。太陽系には存在しない種類の惑星であるが、地球型惑星の形成過程と惑星の軌道移動の関係の理解に繋がるとともに、惑星大気の有無や組成という観点から、生命居住可能な惑星環境を議論する上でも重要な天体となっている。2021年現在で約980個のスーパーアースが報告されている。