宇宙初期において2つのブラックホールが衝突合体過程にある証拠が見つかる

5月18日

 

 

 

写真1 ( C ) ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, H. Übler, R. Maiolino, et. al.

宇宙誕生後7億4千万年しか経過していない遠くの宇宙にある、2つのブラックホールを持つ銀河からなるZS7システムがある近傍宇宙の様子。

 

 

写真2 ( C ) ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, H. Übler, R. Maiolino, et. al.

ZS7システムを拡大したもの。一番右側の写真においてオレンジ色の領域はイオン化された水素があるところを示し、暗い赤はイオン化された酸素があるところを示している。イオン化された原子が存在するところにブラックホールがあると考えられており、距離の近い2つの点が写っているところから、2つのブラックホールが衝突合体の過程にあることがわかった。

 

 イギリス・ケンブリッジ大学のHannah Übler氏を中心とする研究チームは16日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線観測装置・NIRcamの観測により、宇宙年齢がおよそ7億4千万年という初期宇宙において、巨大ブラックホールを持つ2つの銀河が衝突合体途中である証拠を得ることに成功したと発表した(写真2)。この2つの巨大ブラックホールはZS7システムとして知られている。宇宙年齢が若いほど遠くの宇宙を捉えることになるが、これほどに遠くの宇宙においてブラックホールを持つ銀河の衝突合体過程が捉えられたのは今回が初めてである。

 

 これまでの宇宙観測史上、天の川銀河を含めて多くの銀河において太陽質量の数百万~数十億にも上る質量を持つ超巨大ブラックホールの観測がなされてきた。ブラックホールは間違いなく銀河進化に欠かせないものである。宇宙初期においても超巨大ブラックホールが急成長をとげながらできあがるとの予測も立てられていた。しかしどのようにしてブラックホールが成長してきたのかという謎は未解明な部分が多い。

 

 今回研究チームは、JWSTの近赤外線観測装置・NIRCamを用いて宇宙年齢がわずか7億4千万年という遠くの宇宙におけるZS7と呼ばれる2つのブラックホールからなるシステムを直接観測することとした(写真2)。その結果、超巨大ブラックホールを持つ2つの銀河が衝突過程にある証拠を得ることに成功したと発表した。巨大ブラックホールは降着円盤から物質を吸収しているため、分光観測で2つのブラックホールを見分けることは極めて難しい。地球にある望遠鏡で観測するのは特に難しく、高解像度観測が行えるJWSTだからこそ、今回の観測に至った。Hannah Übler氏は「ブラックホール付近において、速い動きを伴うイオン化された水素や酸素の高密度ガスを捉えることに成功した。これらのガスはブラックホールから放出されるものであるため、距離の近い2個のブラックホールを捉えたとこになる」とコメントしている。さらに研究チームはこのうちの1つのブラックホールが太陽質量の5千万倍の質量を持つと見積もった。残りの1つのブラックホールは濃いガスで覆われているため、質量の見積もりが困難であるが、およそもう一つのブラックホールと同程度の質量であると推定している。

 

 今回の観測結果から得られることとしてHannah氏は「宇宙の夜明けの時期においてブラックホールが急成長を遂げていくためには、合体することが不可欠であった。そして急成長をとげた巨大ブラックホールが初期宇宙において銀河形成を促していた」と結論付けている。

 

 また研究チームは一度2つのブラックホールが衝突すると重力波が放出されると予想しているが、この重力波はまだ捉えられていない。この重力波を捉えるためには、現在開発が進められているLISA(地球ではなく、天文衛星においてレーザー干渉計を用いて重力波を捉える試み)のプロジェクトが順調に進んでいくことが期待されている。

 

 今後研究チームは宇宙の夜明けと呼ばれる宇宙初期において、どれくらいのブラックホールが衝突合体をして、どのくらいの重力波の放出が行われるのかを解明していくことに注力するとしている。