7月6日
写真1 ( C ) ESA/Webb, NASA & CSA, A. Nierenberg.
コップ座方向約60億光年先にあるクェーサー天体・RX J1131-1231の姿。重力レンズ効果によってクェーサー天体が4つの像に分離されている。リング中心の青いドットは強大な質量を持った銀河であり、レンズ天体となっている。レンズ天体まわりにクェーサー天体からの光が伸ばされている。
ESAは5日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の中間赤外線観測装置・MIRIによって観測された、重力レンズ効果を受けたクェーサー天体・RX J1131-1231の姿(写真1)を公開した。まるで宝石が散りばめられた指輪のような美しい姿をしている。
RX J1131-1231はコップ座(春の南の空にある星座)方向約60億光年先にある。クェーサー天体は、遠くの宇宙に存在する明るい活動銀河核のことであり、活動銀河核は銀河中心に巨大ブラックホールが存在し、多くの物質を集めた際に開放される重力エネルギーの力によって明るく輝く天体のことである。クェーサー天体からはX線が放出されており、このX線を観測することで中心にある巨大ブラックホールがどれくらいの速さで回転しているかや、どのように成長してきたかを探ることが可能であるとされている。例えばブラックホールが銀河同士の衝突や合併で形成されたとするならば、ブラックホール周りに形成される降着円盤に多くの物質が集まることで回転が速まる。その一方で多くの小さな物質の降着によってブラックホールが成長してきたならば、物質の降着があらゆる方向からなされるため、回転が遅くなるはずである。
重力レンズ効果は観測者と観測対象となるものの間に、ブラックホールなど強大な質量を持ち、大きな重力効果をもたらすレンズ天体がある場合に、そのレンズ天体が観測対象となる天体からの光を曲げたり、増光させたり、何重もの像を作り出したりする効果をもたらす。一般相対性理論の生みの親、アインシュタインによって予言された現象である。レンズ天体の縁に沿って光を伸ばす効果をもたらすため、逆に遠くからやってくる光が、目に見えない丸い形のものの縁に沿って伸ばされている場合に、その中心にレンズ天体が存在するという解釈をすることもできる。重力レンズ効果を利用して、遠くの宇宙にあるかすかな光しか出さない天体を観測することも可能である。
今回観測された写真ではまさに光がレンズ天体の縁に沿って伸ばされている様子が写し出されている。写真1をみるとレンズ天体がクェーサー天体からの光を弧状に伸ばし、4つの像を作り出す様子が写し出されている。また今回の観測で得られたX線のデータから、このクェーサーが光のおよそ半分くらいの高速で回転しているため、中心にあるブラックホールが銀河同士の衝突によって形成された可能性が高いと結論付けている。