球状星団・オメガ星団において中間質量ブラックホールが存在する新たな証拠

7月13日

 

 

 

写真1 ( C ) ESA/Hubble & NASA, M. Häberle (MPIA).

ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたオメガ星団の姿。一番左はオメガ星団の全体写真、真ん中は中心部の詳細な写真、一番右はさらに中心部を捉えたものである。一番右の写真において、白い破線で囲まれた部分に中間質量ブラックホールが存在する証拠が見つかったとしている。

 

 マックスプランク宇宙研究所(ドイツ)のMaximilian Häberle氏を中心とする研究チームは10日、過去20年に渡るハッブル宇宙望遠鏡の観測データを用いて球状星団・オメガ星団の解析を行った結果、中心に中間質量ブラックホールが存在する新たな証拠を得ることに成功したと発表した(写真1)。ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された500枚以上の写真を解析し、オメガ星団中心付近に存在する7個の星が球状星団の重力を振り切るほどのとても速い動きを見せていることが判明し、このことが中心に中間質量ブラックホールが存在する強い証拠になるとしている。

 

 球状星団・オメガ星団は天の川銀河に存在するおよそ1000万個もの星からなる天体であり、ケンタウルス座方向およそ17,700光年先にある。通常の球状星団は数万~数百万個の星で構成されることから、いかに多くの星で構成されているかがわかる。またオメガ星団の回転速度は通常の球状星団より速く、星が広範囲に広がっている。南半球から肉眼で見えるほど輝く天体であり、郊外から観測すると、満月とほぼ同じ大きさで見ることができる。オメガ星団は古くから知られており、観測の精度が上がるにつれて、どの天体に分類されるかが変わってきた。2000年前の古代ギリシアの天文学者・プトレマイオスはオメガ星団が一つの星であるとして認識していたが、1677年にイギリスの天文学者・エドモンド・ハレーによって星雲であるとの認識に変わった。その後1830年代にイギリスの天文学者・ジョン・ハーシェルによって初めて球状星団として認識された。

 

 中間質量ブラックホールは太陽質量の1000~1万倍ほどの質量を持つブラックホールであり、観測例は少ない。太陽質量の100万倍以上の質量を持つ大質量ブラックホールはこれまでに数多く見つかっているが、大質量ブラックホールに比べてX線などの観測量が少ないためである。

 

 今回研究チームはオメガ星団内にある星の動きのデータを整理するために、20年に渡ってハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された500枚もの写真の解析を行い、140万個もの星の速度解析を行った。その過程で特徴的な動きをするある7個の星を発見した。Maximilian Häberle氏は「これらの星は球状星団の重力を振り切って二度と中心に戻ってくることがないほどの速さで動いている。これは中心に強大な重力を持つ物体がこれらの星を引き付け、中心に閉じ込めようとする力が働かないと存在しえない。その強大な重力を持つものがまさにブラックホールだ。そしてこのブラックホールは太陽質量の少なくとも8200倍に上ると考えられる」とコメントしている。さらに研究チームの一人であるNadine Neumayer氏は「今回の発見はオメガ星団に中間質量ブラックホールが存在する決定的証拠となった。そしてこのようにブラックホールが存在する天体は他にはあまりないため、今回の発見にとても興奮している。」とコメントしている。

 

 これまでにもオメガ星団内に中間質量ブラックホールが存在するとの研究報告がなされていたが、この研究ではオメガ星団中心にある恒星質量ブラックホールによって質量が分配され、オメガ星団の重力を振り切るほどの速度を持つ星の存在はないとされていた。もし今回のオメガ星団における中間質量ブラックホールの存在が確かなものとなれば、天の川銀河中心に存在するブラックホール(26,000光年離れた場所にある)よりも近くに存在するブラックホールということになる。

 

 研究チームは今後オメガ星団中心に存在するブラックホールの特徴を正確に捉えることを目標としている。今回の解析結果からブラックホールの質量が太陽質量の8200倍と見積もられたが、その正確な数字を捉えるとともに、ブラックホールの位置を特定することも目標にしている。またブラックホールまわりに存在する速く動く星たちの軌道を正確に捉えるために、これらの星の視線速度を測定することも目標としている。そのためにジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡やその他の望遠鏡を用いて観測を行う予定である。さらにESAの位置天文衛星Gaiaデータにおいてもオメガ星団の50万個の星のデータがおさめられているため、これらのデータ解析にも注力するとしている。

 

 

( C ) ESA/Hubble & NASA, M. Häberle (MPIA).

ハッブル宇宙望遠鏡によって捉えられたオメガ星団の姿。