8月3日
写真1 ( C ) ESA/Webb, NASA, CSA, STScI, E. Matthews (Max Planck Institute for Astronomy).
ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって撮影された、地球からおよそ12光年離れた場所にある太陽系外惑星系・Epsilon Indi Aの姿。真ん中の白い破線で囲まれた場所に主星Epsilon Indi Aがある(コロナグラフによって観測されているため、主星の光が隠されている)。主星の左にオレンジ色で示された太陽系外惑星・Epsilon Indi Abがある。10.6マイクロメートルの光は青色で、15.5マイクロメートルの光はオレンジ色で示されている。
マックスプランク宇宙研究所(ドイツ)のElisabeth Matthews氏を中心とする研究チームは7月24日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の中間赤外線観測装置(MIRI)に搭載されたコロナグラフ(*注1)を用いてEpsilon Indi Abと呼ばれる太陽系外惑星を直接撮影することに成功したと発表した。またこの太陽系外惑星の表面温度が2℃であることが判明した。これまでに観測された太陽系外惑星の中で最も温度が低い太陽系外惑星に分類されるとしている。このような温度が低い惑星から出される光は中間赤外線がほとんどであり、わずかな光しか出さないことから、JWSTのような高解像度・高性能な望遠鏡の出現が待たれていた。
Epsilon Indi Abは地球からおよそ12光年離れた場所にあり、その質量は木星の数倍ある。これまでに発見された太陽系外惑星の中で12番目に地球から近い惑星であり、木星よりも重い惑星としては地球に一番近い惑星である。主星(系外惑星系の中心に存在する星)はK型星(*注2)に分類され、太陽と同じくらいの年齢であるEpsilon Indi Aであり、太陽よりも少しだけ温度が低い。Epsilon Indi Abはそのまわりを軌道運動している。
これまでにもこの惑星系の撮影が行われてきたが、星のまわりに大きな惑星が存在する可能性があることしか把握がなされていなかった。これまでに直接撮像がなされた太陽系外惑星は形成されたばかりの若いものが多く、多くの放射線を放出しているため観測がしやすいが、今回直接撮像がなされた惑星のように、形成されてから多くの年月が経ち、冷えてくると放出される放射線の量が少なくなる。そしてその多くの放射線は中間赤外線である。したがってJWSTのような中間赤外線を捉えることが可能であり、解像度も高い望遠鏡による観測が行われることが望まれていた。
研究チームはこれまでの観測データの解析から、主星Epsilon Indi Aまわりの天体の動径速度(主星から惑星の線上での速度)を解析すると、その周りにある天体が惑星である可能性があると予測されたことから、JWSTによって観測してそれが惑星であることを特定することを目指した。実際にJWSTによる観測を行った結果、Epsilon Indi Abの直接撮像に成功し、それが惑星であることを特定した(写真1)。またその表面温度がセ氏2度であることが判明した。これまでに直接撮像がなされた太陽系外惑星の中でも最も表面温度が低い太陽系外惑星に分類されるとしている。またその温度は自由浮遊褐色矮星(中心部で水素の核融合反応が起こらない)よりも低いが、太陽系にあるガス型惑星よりは100度温度が高い。これらの情報からEpsilon Indi Abの大気がどのように構成されているかを研究することが可能であるとしている。Elisabeth Matthews氏は「今回Epsilon Indi Abの直接撮像に成功したことは、この惑星が木星にかなり似た性質を持っており、木星よりも温度が少しだけ高く、質量も重いという特殊な性質を持っていることから、今後の太陽系外惑星系の研究を行う上でとても意義のあることであり、驚くべきことである。」とコメントしている。
Epsilon Indi Abの観測が成功したものの、多くの疑問点も残ったとしている。Elisabeth氏は「惑星・Epsilon Indi Abが主星の2倍ほどの質量を持ち、少ししか主星から離れていないことが我々の予想と異なっており、また予想と違った軌道運動をしている。さらに大気の状態もモデル予想と異なっていることが判明した。波長の短い光を捉えることが予想より難しく、結論を得ることは難しい」とコメントしている。しかしこの波長の短い光がなかなか捉えられないということは、惑星表面にメタンや一酸化炭素、二酸化炭素が多く存在することによってこれらの分子が短い光を吸収していることを示唆するとしている。もしこれが本当であれば、この惑星に多くの雲が存在するということにもなる。
今回太陽系外惑星の直接撮像に成功したことはとても意義のあることである。太陽系外惑星を直接撮影することが可能になったと共に、異なる波長ごとの光の強さを比較することができるようになった。今後研究チームはEpsilon Indi AbのJWSTによる分光観測を実施しこの惑星の特徴を捉えていくとともに、新たにこの惑星と似たような惑星探査を進め、これらの惑星の大気状態がどのようになっているのか、どのように形成されたのかを発見することに努めていくとしている。
*注1 明るい恒星のごく近傍にある伴星や惑星など暗い天体を観測するために用いられる装置。太陽系外惑星の直接撮像法による検出で広く用いられる。もともと、太陽の明るく光る部分の外側にある、コロナと呼ばれる薄い大気の観測のために開発されたのがコロナグラフであり、同様の手法を恒星の近傍の伴星、惑星など暗い天体の観測に用いたもの。像面に遮光マスク、瞳面にリオストップと呼ばれる回折光用マスクを設けることによって明るい恒星光を遮断し、星像のハローを低減する。これは古典的リオコロナグラフと呼ばれているが、最近では数多くの新しいコロナグラフの手法が提案されている。
*注2 ハーバード分類で表面温度の系列に属し、表面温度は~5300K。質量は太陽質量の0.8倍程度。