8月14日
写真1 ( C ) ESA/Webb, NASA & CSA, L. Bradley (STScI), A. Adamo (Stockholm University) and the Cosmic Spring collaboration.
右はJWSTによって撮影された銀河団・SPT-CL J0615−5746の姿。左はその一部を拡大したものであり、重力レンズ効果によって銀河の光が引き延ばされた弧状の光が2個写し出されている。そのうちの一つで、5つの質量が大きくて若い星団が発見された。
Angela Adamo氏(ストックホルム大学)を中心とする国際研究チームは6月24日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線観測装置(NIRCam)を用いた観測により、宇宙がビッグバンによって生まれてから4億6千万年後に誕生した星団を発見することに成功したと発表した(写真1)。重力レンズ効果によって弧状に伸ばされたこの年代における銀河の光の中に、若くて質量の大きい5個の星団が発見された。ビッグバンが発生してから5億年以内の宇宙において星団を発見したのは今回が初めてである。今回の観測結果は、天の川銀河中にある球状星団がどのように誕生し成長してきたのかを解明する上で重要な手掛かりになるとしている。
初期宇宙における若い銀河はスターバースト(爆発的星形成)によってたくさんの星を作り出し、多くの紫外線を放出していた。銀河の形成過程を調べるために初期宇宙における銀河を調べることは有益なことであるが、地球からあまりにも遠い宇宙であるため、JWSTのような高精度の天体望遠鏡の誕生が待たれていた。
今回研究チームはかつてハッブル宇宙望遠鏡による重力レンズ効果を用いた遠方宇宙探査プログラムによって発見された、銀河からの光が弧状に伸ばされている光を対象として、JWSTによる観測を行うこととした。この弧状の光はSPT0615-JD1と名付けられ、銀河団・SPT-CL J0615-5746の中にある。これらの銀河団は初期宇宙における再電離時代(宇宙誕生後2~5億年頃に始まり、9億年頃に終わった)に、中性水素ガスを再電離する強力な放射線源になっていたと考えられている。
弧状の光・SPT0615-JD1を観測した結果、5個の質量の大きい若い星団を発見することに成功した(写真1)。弧状の光の中のどこで星団が誕生しているか、どのように分布しているかが正確に捉えられていることがわかる。これらの星団は密度が高く、狭い銀河の中に佇んでいることもわかる。そしてこれらの星団は、銀河から放射される紫外線の大部分を放射していることも判明した。これらの5個の星団は近くにある星団よりも明らかに密度が高いこともわかった。
今回の観測は、初期宇宙において星形成がどのように行われていたかを解明する上で重要な資料になるとしている。また天の川銀河には球状星団という重力的に束縛され、数十憶年という長い期間を過ごしてきた天体が存在するが、この球状星団がいつどこで誕生し、どのように成長してきたのかを理解することにもつながるとしている。
研究チームは今後もSPT0615-JD1と似たような銀河の観測をたくさん行い、初期宇宙における銀河の謎を解き明かすことを目標としている。既にJWSTのNIRSpecとMIRI(中間赤外線観測装置)による観測を進める予定であり、銀河がどのくらい地球から離れているのかを正確に測り、紫外線の放射量を正確に測って物理的特徴を捉えることを見据えている。