初期宇宙の超巨大ブラックホールが続々と見つかる

9月22日

 

 

 

写真1 ( C ) NASA, ESA,  M. Hayes (Stockholm University), J. DePasquale (STScI).

ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた初期宇宙に存在する超巨大ブラックホールの姿。写真はハッブル宇宙望遠鏡に搭載されたACS(紫外線から赤外線までの幅広い波長の光を捉える)とWFC3(近赤外線観測装置)によって捉えられた写真の合成画像。

 

 ストックホルム大学のMatthew Hayesを中心とする国際研究チームは17日、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の近赤外線観測装置を用いて初期宇宙の様子を捉えた結果、いくつかの新たな超巨大ブラックホールを観測することに成功したと発表した。これまでに何度か行われた観測データを基に解析を行った結果、これまで予測されてきたよりも多くの超巨大ブラックホールが観測されたとしている。今回の観測結果は超巨大ブラックホールが初期宇宙においてどのように形成されたかを明らかにするとともに、ブラックホールが主導する銀河形成がどのように行われてきたかを明らかにする上で重要な研究成果であるとしている。

 

 ビッグバンが起きて宇宙が誕生してから10億年以内に存在したとされる太陽質量の10億倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールは、全ての銀河の形成を行う上で重要な役割を果たしてきたと考えられている。しかしこのような超巨大ブラックホールはあまりにも遠いところにあるためかすかな光しか出さず、これまでに完璧な写真を捉えられたことがなかった。

 

 初期宇宙の様子をHSTで捉えるプログラムは2004年に初めて行われ、その後2009年2012年、2023年とWide field Camera 3の近赤外線観測装置による観測が行われてきた。これらの写真を比較することで銀河の様々な光具合を確かめることが可能となり、ブラックホールの存在を確かめることも可能となった。今回研究チームはこの方法で2023年にHSTによって捉えられた写真を解析した結果、これまでに発見されたものよりも多くのブラックホールを捉えることに成功した。

 

 また写真1は今回の観測によって発見されたブラックホールの一部であり、2004年にウルトラディープフィールドと呼ばれるプログラムの一環として、HSTのACS(紫外線から赤外線の幅広い波長の光を捉える)とWFC3(近赤外線観測)によって捉えられた初期宇宙の様子である。様々な形をした銀河の姿が写る。また四角で囲われた場所に渦巻銀河と軸のような形をした銀河の姿が写る。軸のような形をしているのはこの銀河がエッジオン銀河(銀河の円盤面を真横から見ているがためにエッジの部分だけ写る。)だからである。今回研究チームが過去の写真を参考に、観測データを解析した結果、このエッジオン銀河の中心に明るく輝く白い部分が存在し、超巨大ブラックホールが存在することを示唆することを見出すことに成功した。またこの超巨大ブラックホールは周りにある物質を常に吸収しているわけではなく、明滅現象を起こしていることが判明した。

 

 今回研究チームがHSTによる初期宇宙に存在するブラックホールの観測データをさらに解析した結果、いくつかのブラックホールは宇宙が誕生してから10億年以内に、できたての大質量星が衝突した結果できた可能性があるとの見方を示した。それ以降にできた大質量星は生涯を終えた星の残骸が含まれるために、このような星同士の衝突でブラックホールができるとは考えにくく、後期のブラックホールはガス雲や星団中の星の衝突合体によってできた可能性があるとしている。

 

 Matthew Hayes氏は「初期宇宙のブラックホール形成理論は銀河進化を解明する上で重要な鍵を握る。今はブラックホールがどのように成長し、銀河がどのようにして形成されたかを理論的に計算することに注力しており、ブラックホールが大質量星の重力収縮によってできたかどうかを確かめることも重要な課題である」とコメントしている。

 

 今後はジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡による観測も行われ、ビッグバンから間もない時期のブラックホールを発見していくと共に、これらの天体がどれくらいの重さなのかやどこに位置しているかの理解が進むことが期待されるとしている。