ブラックホールから放出されるジェットが超新星を促すことが明らかになった

9月28日

 

 

 

画像1 ( C ) NASA, ESA, J. Olmsted (STScI).

楕円銀河M87の中心におけるブラックホールから放出されるジェットが、連星系における超新星を促す様子を示すイメージ図。画像真ん中左にある青いドットがブラックホールを示し、そこからジェットが右上方向に伸びている。右下に連星系が描かれており、赤く燃え上がる赤色巨星から伴星である白色矮星に水素を供給し、白色矮星の水素の層が1マイルほどにもなると水素の層が爆発現象を起こす。これを超新星というが、連星系ではこの超新星が繰り返される。ジェットが連星系に多くの水素を供給することで、連星系の超新星が通常の環境よりも2倍程度の頻度で起きていることが今回の研究成果で示された。

 

 Alec Lessing氏(スタンフォード大学)を中心とする国際研究グループは26日、ハッブル宇宙望遠鏡(以下HST)のFOCカメラを用いたM87銀河の観測データを解析した結果、銀河中心にある超巨大ブラックホールから放出されるジェットの近くにある星の爆発現象「超新星」が起きる割合が、通常の超新星よりも2倍ほど起きていることが判明したと発表した。このことはブラックホールから放出されるジェットが爆発の燃料となる水素を多く供給し、超新星を促すことを示唆するとしている。今回の観測結果は天文学者たちにとって予想外の結果となり、Alec氏は「今回の観測結果にとても驚いている。ブラックホールから放出されるジェットが周りの環境とどう影響を及ぼしあっていくかについてのこれまでの理論モデルに、足りない部分があることを意味している」とコメントしている。

 

 星の爆発現象「超新星」は星が生涯を終えた際に起こる重力崩壊による爆発現象を指すことが一般的である。しかし超新星には他にも連星系における伴星が質量降着を受けて起きる爆発現象も存在する。画像1で示すように、年老いて膨らんだ赤色巨星が伴星である白色矮星に水素を供給し、その水素の層が1マイルほどの深さになると大きな核爆発が起きるように、水素の層が爆発現象を起こす。このとき白色矮星は爆発現象によって完全になくなるわけではなく、水素の層だけが放出され、その後伴星から燃料を調達し、再び星の活動を続けていく。このようにして超新星サイクルを繰り返すと考えられている。今回の解析対象となったM87銀河では超新星が毎日どこかで1回起きていると考えられている。また現段階で見ることのできる宇宙には1,000億個もの銀河が存在すると推定されているが、この宇宙において100万個もの超新星が毎秒どこかで起きていると推定されている。

 

 今回研究チームがHSTのFOCカメラ(Faint Object Camaera)の観測データを解析した結果、M87巨大銀河の中心にある太陽質量の650億倍ほどの質量を持つブラックホールから放出されるジェット周りの超新星が、通常の数の2倍ほどあることが判明した。ただしジェットの中では超新星が観測されなかったとしている。このブラックホールは周りの降着円盤から質量を吸収することによって3,000光年にも及ぶ長さのプラズマで構成されたジェットを放出し、ジェットは光速で宇宙空間を進んでいる。研究チームはこのジェットが連星系に水素を供給し、超新星を起こしやすくしていると結論付けた。今回の解析結果は他の様々な銀河においても、中心にあるブラックホールから放出されるジェット周りの超新星の数が、通常の環境の2倍ほど見つかる可能性があることを示唆するとしている。

 

 しかしなぜジェット近くにおいて連星系における超新星が起きやすいかについては、謎が残されている。研究チームはジェットによる水素の供給が要因であるとしたが、ジェットから放出される光の圧力によるものかもしれないし、ジェットが連星系における白色矮星の伴星を加熱することによって、より多くの水素が供給されるということも考えられるとしている。後者については、ジェットまわりで2倍の超新星が観測される結果との整合性がとれるほどの熱量を供給することが困難なのではないかとの指摘もされている。