11月16日
画像1 ( C ) NASA, ESA, R. Crawford (STScI).
大マゼラン雲(LMC)のハロー領域にあるガスが、天の川銀河のハロー領域にあるガスからラム圧を受けてはぎとられる様子が示されている。今回の解析は、遠くにあるクエーサーからの光をハロー領域にあるガスが吸収した際のスペクトルを調べることで、大マゼラン雲のハロー領域にあるガスの性質が調べられた。
Sapna Mishra氏(宇宙望遠鏡科学研究所)を中心とする研究グループは14日、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを解析した結果、大マゼラン雲の周りのガスが天の川銀河のラム圧によってはぎとられていることが判明したと発表した(画像1)。大マゼラン雲と同じ質量を持つ銀河に比べて、大マゼラン雲周りのハロー領域(*注1)にあるガスの質量は1/10程度であるとしている。また大マゼラン雲のハローのサイズが直径50,000光年ほどであることも判明した。通常の銀河であればこれほどの天の川銀河のラム圧を受けてガスを失うと、銀河として存在することは困難であると考えられているが、大マゼラン雲では、むしろ新しい星を生み出し続けるほどの十分なガスを蓄えていることが今回の研究で判明した。
大マゼラン雲は天の川銀河に一番近い銀河であり、矮小銀河に分類される。その近さから天文学者にとっては研究が行いやすく、多くの研究が行われている。また南半球の空において、みかけの大きさが満月の20倍ほどの天体として観測される。多くの天文学者が大マゼラン雲は天の川銀河まわりを周る天体ではなく、ただ単に天の川銀河近傍を通過している最中であると指摘している。この過程で大マゼラン雲まわりのガスが天の川銀河のラム圧によってはぎとられると考えられている。大マゼラン雲と天の川銀河の相互作用を理解することで、初期宇宙において、銀河同士が近づいたときに何が起きたかを理解することにつながると考えられている。
今回研究チームがハッブル宇宙望遠鏡の観測データを解析した結果、大マゼラン雲のハロー領域の大きさが50,000光年であり、同じ質量の銀河と比べてハロー領域の大きさが1/10程度であり、質量も1/10ほどであることが判明した。このことは大マゼラン雲が天の川銀河との近接遭遇をしたことを物語っていると研究チームは指摘している。研究チームの一人であるAndrew Fox氏は「大マゼラン雲は天の川銀河からのラム圧によって多くのガスを失っているにも関わらず、絶えず星を作り続けている。新しい星形成領域が今なお作り続けられている。ただほとんどのガスが失われ、年老いた赤色巨星が多いため、大マゼラン雲の寿命は長くないだろう」とコメントしている。またSapna Mishra氏は「天の川銀河の巨大なハローが要因で大マゼラン雲のガスが失われた。しかし天の川銀河との複雑な総合作用によって、大マゼラン雲は自身に大きな質量を持っているが故に、ハロー領域において通常の銀河のハロー質量の10%の質量を保つことができている」とコメントしている。
研究チームが今回の大マゼラン雲の解析を行うにあたり、28個のクエーサーデータを解析した。クエーサーは活動銀河核の中で最も明るい光を出す天体である。この強い光が吸収された場所にハローガスが存在すると判断され、そのスペクトルを調べることで、ハローガスの分布、及びハローガスの質量、温度、速度、構成成分がわかる。
研究チームは今後大マゼラン雲のハローガスの前面部分に焦点を当てたいと考えている。Scott Lucchini氏は「大マゼラン雲のハローガスの前面部分は天の川銀河のハローガスと衝突している部分であり、新しい研究プログラムを用意している」とコメントしている。
*注1 渦巻銀河の円盤を包みこむように丸く分布している星の成分。