11月23日

 

 

 

写真1 ( C ) ESO/K. Ohnaka et al.

ESOのVLT望遠鏡によって撮影された、大マゼラン雲内にある死にゆく星・WOH G64の姿。星が塵やガスで構成された卵型のまゆで覆われている様子がわかる。まゆ周りにもさらに楕円形の塵のリングが存在するが、その詳細は不明である。

 

 大仲圭一氏(チリ・アンドレス・ベーリョ国立大学)を中心とする国際研究チームは21日、ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT望遠鏡を用いた観測により、大マゼラン雲内の死にゆく星の姿の拡大写真を初めて捉えることに成功したと発表した(写真1)。写真1を見ると、ガスや塵が吹き出されて卵型のまゆが形成されている様子がわかる。なぜこのような楕円型のまゆになるかは謎が残されているとしている。

 

 これまで天の川銀河内において多数の星の撮影が行われ、数十もの星の拡大写真が撮影され、その性質が明らかになっていた。しかし天の川銀河の外にある銀河・大マゼラン雲内の星となると、その姿を明らかにすることは容易ではなかった。

 

 今回観測対象となった死にゆく星WOH G64は大マゼラン雲の中に存在し、その存在はここ数十年に渡って知られており、太陽の2,000倍近くの大きさがあるため、「巨獣星」という名前がつけられていた。またこの星は赤色巨星に分類される。2005年と2007年に大仲氏率いる研究チームがVLTに搭載されたVLTIと呼ばれる装置によって観測を続けていたが、その詳細な姿は明らかにされなかった。

 

 今回研究チームは、再度VLTIの改良版である GRAVITYという装置を用いた観測により、大マゼラン雲内の死にゆく星の拡大写真を捉えることに成功した(写真1)。過去の観測データと比べてここ10年で明らかに星の光が減光していることが判明したとしている。WOH G64はここ数千年で最期を迎えており、ガスや塵で構成された外層を脱ぎ捨てる段階にあるとしており、写真1においてもその姿がしっかりと写っている。この脱ぎ捨てられた外層の影響で星の光が減光する。大仲圭一氏は「私達は一つの星周りで卵型のまゆを発見することに成功した。超新星前の死にゆく星から放たれる猛烈な質量放出に関するものであると考えると、非常に興味深い」とコメントしている。

 

 写真1に写る楕円型に伸びる卵型のまゆは、過去の観測や、コンピュータモデルでの再現と異なる形をしており、研究チームは他の異なる星の外層の脱ぎ捨ての影響、もしくはまだ見つかっていない伴星の影響によるものであるかもしれないと指摘している。

 

 今後もWOH G64の観測が続くが、この星がどんどん減光していき、その詳細を捉えることが難しくなっていくと考えられている。しかしVLT望遠鏡に搭載されたGRAVITYがGRAVITY+として再開発される予定であり、この装置による将来的な追観測が、この星の中で何が起きているのかを理解する上で重要な鍵を握るとしている。